中編

□一方通行と読心能力者
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「あ、いらっしゃい。まだ出来てないから座って待っててね」
「あァ。今日はなンだ」
「鮭だよー」


あれから一方通行は毎日、夕方になるとうちに来るようになった。
人に食べさせるのなら、と思うとご飯を作るのにも気合が入る。
私だけなら一品でもいいかと思うのだが、一方通行がいるならそうもいかない。
手元のフライパンでは鮭が焼き上がったところだった。
料理ができるまでの間、一方通行は座って待っている。
その姿がなんだか、借りてきた猫みたいな印象を受けた。

――か、かわいい……言ったら怒りそうだけど。

皿に鮭を移し、お米を用意する。
他のおかずと一緒にテーブルに並べ始めると一方通行も黙って皿を手に取り始めた。
驚いて彼を見つめると、訝しげな顔をされた。
これまではご飯が並べられるまで、座っているだけだったのに。
どうやら彼は成長しているらしい。




「いただきます」
「…………マス」

なんと表現したらいいのか、居心地の悪そうな顔をしている。
彼が言い慣れないのはなんとなくわかるので、

「ゆくゆくは言えるようになろうね」

と声を掛けるとうるせェ、と返された。
これでも初日よりは良くなったように思う。
初日は黙って手を合わせるマネだけをしていたから。
食事に箸をつけながら、今日一日の話をする。
主に学校のこと、友達のことなど、他愛のない話だ。
一方通行はその話にツッコミを入れたりと積極的に会話に加わってくれる。
しかし彼自身の話はあまりしてくれたことがなかった。
話したくないことが多いのだろうか。
あまりしつこくは聞かず、彼が自分から話してくれるまで待つことにしている。

「二人で食べると美味しいや。私の料理の腕が上がった気がする」
「気のせいだ、そりゃ」

一方通行はそう言うし、私の発言はそのツッコミ待ちだった。
でもね、本当は違うんだよ、一方通行。
人に適当な料理なんて食べさせられないから、少しずつ、腕は上がっている。
経験を積んだ、とも言える。
私も成長しているのだ。




食後、一方通行から紙幣を手渡された。
見てみると数枚の諭吉さんがいる。

「これ、今月の食費な」
「え、気にしなくても」
「材料費は馬鹿になンねェだろ。それに俺は節約したくねェからな」

節約をしたくない。
そういえばこのところの食材は安上がりだった。
鮭の前は豚肉、鶏肉、卵……。
つまり、高い肉を食わせろということだろうか。牛肉を。

「はぁ…じゃあ有難く頂きます。じゃあ明日は牛肉がいい?」
「あァ」
「ステーキとか食べたいの?」
「いや、その……」

歯切れの悪い一方通行に首を傾げた。
何か言いたいことがあるのだろか。
一方通行は困ったように頭をがしがしと掻いた。

「折角オマエが作るンだから、店で食えねェのがイイ」
「お店で食べられないもの?」
「店で食えるモンは昼に食うからよォ……肉じゃが、とか。家庭料理を頼みてェ」
「あぁ、肉じゃがかぁ」
「実はあまり作らねェとか?」

不安げに上目遣いでじっと見つめられた。
彼にとって家庭とは遠い存在なのだろう。
彼が望むもの、欲しいものがなんとなくわかった気がした。

「大丈夫、リクエスト受け付けたよ!」

少しだけ、胸が苦しくなった。




to be continued...
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