中編

□一方通行と読心能力者
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夕方、学校から帰った私は寮のポストを開けた。
チラシが数枚入っているのを取り出していると、後で人の気配がした。
先に階段を上ろうとしている白い頭、一方通行だ。
声を掛けてくれてもいいのに。

「一方通行?今帰り?」

一方通行は億劫な動作でこちらを一瞥した。
なにかあったのだろうか。
その瞳はどこか暗い色をしている。

「……あァ」
「どうか……したの?」
「……なンでもない」

沈黙の後、呟かれた台詞。
彼は、私に何か隠している。
階段を上り去ってしまおうとする彼の背中を追いかけ、そっと触れた。
流れ込んできたのは、罪悪感と、絶望感。

『殺した』『殺した』『俺が』『殺した』『そんなはずじゃ』『殺した』
『殺した』『人形?』『殺した』『殺した』『あいつに注意を向けていたなら』
『あと19999人』『人形?』『殺していい人間?』『人形だから殺してもいい』『殺した』

多くの負の感情がないまぜになっていて、私は恐ろしくて手を引いた。
ころ、した……?一体、何があったのだろう。
彼は私が『読んだ』ことを知らないまま振り返った。
まだ用事があると思ったのか、それとも不審に思われたのか。

「なンだ?」
「ぁ……」

声が、出ない。
違う。何と言っていいのかわからないのだ。
一方通行は私が蒼褪めているのに気づいたようだ。
彼の肌もいつもより蒼白く見えた。

「何か……視た、のか?……そォいやオマエの能力、聞いてなかったな」

一方通行は私の手首を掴んだ。
動揺が流れ込んでくる。

『何を視た』『人形』『俺が』『殺したの』『視た?』
『これでみょうじからも』『避けられる』『怖がられる』『嫌だ』『寂しい』
『レベル6』『いらない』『拒絶、しないでくれ』

隠していることを言え。
そう脅すように手首をぎゅっと握りしめられた。
痛みに顔が歪む。

「言え、みょうじ。オマエの能力……無能力者ってこたァねェンだろ?」
「わ、たしは……」

握られた手首が悲鳴を上げた。
ごまかすのは無理だ、この人に嘘なんてつけない。

「レベル2の、読心能力」
「……っ」
「触れてる間だけ、人の心が読めるの」

手首を通して悲しみが伝わってきた。
彼にそんな思いをさせたことが悲しくて、自分が腹立たしい。
一方通行は強張った顔で乱暴に手首を解放した。
そして彼は絞り出すように言葉を紡いだ。
少しだけ声が震えていた。

「俺の心を読ンで、楽しかったか?それとも同情して近づいたンかよ」
「楽しんでなんかないよ。でも半分は……同情かもしれない」

一方通行が唇を噛んだ。

「でも、残り半分は共感だよ。私は沢山悩んだから。この力で、友達を失くしてきた」
「そォ……か」
「……怒ら、ないの?」
「……怒れるわけ、ねェだろ。俺だって、意図的に黙ってたンだ。能力のこと」

まだ言ってなかったな、と彼は続けた。
そして私を見据えて言った。



「俺は一方通行。レベル5の第一位だ」





to be continued...
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