中編

□一方通行と読心能力者
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「俺は一方通行。レベル5の第一位だ」

みょうじが読心能力者であること。
それが、彼女を嫌いになる理由にはならない。
なぜなら俺も能力者であることを黙っていたからだ。
俺も能力で避けられてきた身だ。
だから俺が名乗った時、聞いたことあると言われても気のせいだとはぐらかした。
拒絶を恐れた俺は、能力を知らせないまま接するつもりだった。




レベル5の第一位。
学園都市の人口230万人の頂点に君臨する者。
その言葉に私は彼の深い孤独に納得した。
一方通行。彼は誰も辿りつけないところにいる。
私は今まで彼が抱いた心を見た。
ぶっきらぼうだけど人に飢えていて、私と仲良くしたいと思っていてくれている。
そして――拒絶を恐れている。
心が視えなくても私は知っている。
空腹で倒れてしまうちょっとマヌケなところも。
「いただきます」がなかなか言えない照れ屋なところも。
そんな人を、今更怖いなどとは思えなかった。
拒絶なんてする筈がなかった。




所変わって私の部屋。
彼はそこで実験のことを話した。
第一位である一方通行だけが辿りつける絶対能力。
そのための実験。
2万人の第三位のクローン。感情が見られない彼女たち。
そして、反射によって命を落とした00001号。

「なァ、俺が殺したのは。人形なンだよな?」

彼がそう思いたいのは、罪悪感から来るものなのだろう。
罪悪感から逃れたくて、『人形だよ。あなたは人殺しじゃない』。そんな言葉が欲しくて問いかけたのだろう。
これきりで済むのなら、彼の心を守るために嘘をつくのも手だったかもしれない。
だが、残り約2万人を殺すことに、彼の心は耐えられるのだろうか。
常人ならば耐えられない。
一方通行も、耐えられるとは思えなかった。
だから、そのクローンは人間だと伝えることにした。

「……その子、生まれたばかりなんだろうね」

これから、彼女たちは人間らしくなっていくのかもしれない。
今は人形のようでも、これから自我が芽生えるのかもしれない。
00001号はその可能性を失った。

「どォいうことだ?」
「私は00001号を人だと思う」
「…………俺は、人殺し……なのか」

項垂れる一方通行に、私は伸ばした手を止めた。
また触れたら心が視えてしまい、彼を傷つけることになる。
触れることができないのがもどかしい。
できることなら触れて、安心させたかった。

「違う、これは事故だよ。もちろん、気づいて銃弾を反らせるのが一番だったけれど、反射が適応されなければあなたが死んでいたかもしれない」
「…………」
「一方通行。今ならまだ間に合う」

実験に抗わなければいけない。
そうでないと、彼の手は汚れてしまう。
彼の心は壊れてしまう。

「この実験は、あなたの協力無しでは実現できないのでしょう?」





翌日、一方通行は研究所に来ていた。
件の実験室へ入ると、奥では00002号であろうクローンが待機していた。
一方通行は彼女に背を向けると研究者に目を向けた。
昨日クローンを人形だと表現した男だ。

「よォ……昨日は信じちまったが」

一方通行は足裏の重力ベクトルを操作し、監視窓まで飛びあがった。

「……っな!」

男は後ずさりながら信じられないとばかりの顔をしていた。
それを嘲笑いながら拳を叩き込む。
実験室を隔てていた防弾ガラスが割れ、一方通行は監視室へと足を踏み入れた。
男はガラスから守るように頭を覆い床に伏せていた。
こんな情けない男が実験を主導していたのか。
一方通行は呆れ返った。

「この実験を拒否する。中止だ」
「な、なんだと……絶対能力者にならなくてもいいのか!」
「興味ねェ。もォいらねェンだよ、そォいうのは」

もう高みを目指す必要はない。
この力を知って、認めてくれる人がいる。十分だ。

「君しか!絶対能力者になれる者はいないというのに!」
「もォオマエンとこの実験に協力する気はねェ。今後一切連絡をよこすな」

無様に喚く男が黙るのを見届けると一方通行は立ち去った。
早くみょうじの元に帰ろう、そう思いながら。




to be continued...
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