中編

□一方通行と読心能力者
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みょうじが目を覚ましたのは深夜2時だった。
ベッド脇には一方通行が丸くなり、微かな寝息を立てている。

「……一方通行?」

囁くように声を掛ける。
眠りが浅かったのか、彼は目を覚ました。

「まだいたの?」
「帰るタイミング失ったンだよ」
「……ありがとう」
「……あ?」
「いてくれて、嬉しい」
「……そォ、かよ」
「でも、風邪ひいちゃうよ」
「身体に有害なモンは反射してっから問題ねェよ」
「それでもなんか、悪いなぁ……」

世話をしてくれた人が膝掛けも持たずラグの上に座っているのだ。
このまま寝させるのを許容するほど、みょうじは図太くない。
みょうじは自分の毛布をめくってみる。
シングルだがもう一人入れないことない。

「あ、じゃあココ入る?なんて……」
「イイのか?」

冗談のつもりだったのだが、一方通行がノってくるのは予想外だった。

「……風邪がうつる心配がないなら、まぁ……」

一緒に寝てもいいのかな。
みょうじは戸惑うが後に引けない。
断ったら彼はきっとしょんぼりしてしまいそうだからだ。
そう思うくらい一方通行は悲しげに見えた。
みょうじは壁際に寄り、一方通行のためのスペースを作る。
彼はベッドに腰を降ろし、そのスペースへと身体を滑り込ませた。
そのままこちらを向き、互いに向かい合う姿勢になる。
みょうじとしては一方通行に調子を取り戻して欲しかったのだが、同じ寝床に入っても尚、彼は目を伏せたままだった。

「……どうして悲しそうなの?」
「…………」

ふれたいからだ。
さびしいからだ。
一方通行は何も言えなかった。
みょうじとずっと一緒にいられたらいいのに。
帰る必要などなくなればいいのに。

「寂しいの?」

図星だ。
否定してもごまかせない。
一方通行は頷いた。

「もしかして、帰りたくなかった?」

もう一度頷いた。

「ごめんね。触れられなくて」
「……みょうじのせいじゃねェし」
「ありがとう」

みょうじの手が伸び、一方通行の髪に触れた。
首を竦め、身構える彼に彼女は言う。

「大丈夫だよ、髪だけだから」

そう言って微笑むみょうじは寂しそうで、一方通行は口を開いた。
一つ、提案したいことがあった。
上手くいけば、人に触れることに躊躇わなくてよくなる提案が。

「なァ、能力の制御、学校のカリキュラムじゃ上手くいかなかったンだろ」
「うん」
「うまくいくかはわからねェが、俺が教えてみよォか」

一方通行とて、彼女に触れたい一心だった。
その想いとは裏腹にみょうじはぽかんとした顔をしている。

「え……、」
「なンだよ、間抜け面しやがって」
「っ、だって、あなたもカリキュラムから教わってるんじゃないの」
「オマエの学校と俺とじゃ知識量が違うンだよ」
「そ、そっか……」

能力開発を一番顕著に発現した、第一位がここにいるのだ。
優等生が学校で習わない知識を持って勉強を教えてくれるなら、甘える以外にない。
うまくいけば、もう触れることに怯えなくていい。
みょうじは心の底から笑顔を見せた。

「ありがとうね」
「気にすンな……俺のためなンだから」

対する一方通行は視線を彷徨わせた。
それがみょうじだから力を尽くすのだ。
知らない奴のためにものを教えるほどの優しさは持ち合わせちゃいない。
ふと欠伸が込み上げ、一方通行は眠気を思い出した。

「今日はもォ寝よォぜ。風邪を悪化させねェためにも」
「あ、うん……おやすみ」
「……ン。オヤスミ」

一人で眠る時より、温かな眠りだった。





to be continued...
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