中編

□君が人魚ならよかった
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翌日一方通行が部屋を出た時、時刻は既に1時を指していた。
約束の時間から1時間経ったのだ。まだいる筈がない。
そう思いながら行き慣れたファミレスまで歩く。
自分を恐れることなく接してくる人間。
そんな存在に簡単に心を開くほど一方通行は単純ではなかった。
要は試したのだ。
彼女がそこまでして自分に構うかを。
期待しないようにして辿りついたファミレスの前、昨日過ごした少女がいた。

「遅いですよ!待ちくたびれました!」
「……なンでいるンだよ」
「だって、折角友達になれたじゃないですか」
「友達?」
「そう思ってたの私だけですか?悲しい!」

みょうじは両手で顔を覆って泣く真似をした。
一方通行は困惑した。
本当に泣いてないとはいえ彼女を悲しませてしまった。
だからといって、自分から『友達』を肯定することなどできない。

「気にするこたァねェよ。俺は友達いねェから」

こんな俺だ。友達でなくても、なれなくても仕方ない。
そう思って彼は言った。
だがみょうじはそれで納得したようには見えなかった。
ただ顔を覆った指の間から一方通行を見つめていた。

「一方通行さん。友達になってはいけませんか?」
「……」
「友達が欲しくはありませんか?」
「………………欲、しィ」

長い沈黙の末、小さく口に出した。
それでも彼女の耳には届いたらしく、みょうじはにっこりと微笑んだ。

「じゃあ、一方通行さんと私は友達です。よろしくお願いしますね」
「……っ、」

やめてくれ、と彼は思った。
すぐにいなくなるクセに、勝手に距離を縮めないでくれ。
だがそう言えず、一方通行が考えあぐねている間にみょうじは話題を変えてしまった。

「お昼まだですよね?今日は屋台巡りしません?」




二人は会場の方へ行き、屋台で焼きそばやはし巻きを買っては食べ比べた。
ジャンクフードとはいえ、誰かと食べるそれらは一方通行にとって美味しく思えた。
大分食べたと思うのだが、みょうじは更にデザートが食べたいと主張した。
甘いものは別腹です、と言って向かった先はりんご飴の店だ。
色鮮やかな赤が、着色料の色と知っていながらも気になってしまう。

「それ旨いのか?」
「一口食べます?」

質問には答えず、みょうじは笑って飴を差し出した。
いいのか、と窺っているとみょうじはもう一度、どうぞという風に飴を傾けた。
齧ると飴の割れる音と共にりんごの水っぽさが口に広がる。
一方通行は眉をしかめた。

「……飴の部分はともかくりンごまっじィ」
「それも一興ってやつですよ!」

わざわざ不味いものを好んで食べる。
一方通行にはよくわからない感覚だった。




それから陽が傾いてきた頃、みょうじは時間だと言った。
友人と一緒に見る約束をしている競技があるらしい。

「明日も会えますか?」

一方通行は黙り込んだ。
いくら仲良くなったところでみょうじはすぐに『外』へ帰ってしまう。
これ以上会ったところで辛くなるだけではないか。
何も言わない一方通行に、良い返事を期待していたみょうじの顔が曇ってきた。

「……どォせオマエ、大覇星祭が終わったら外に帰るんだろ」
「ええ。でも冬休みとか、遊びに来て下さいよ!」

一方通行の立場すら知らないみょうじは、続けた。
彼女は来ることのない冬休みの計画を建てながら楽しげにしている。

「案内しますよ。どこがいいですか?東京タワーとか浅草とかが定番ですかね?学園都市の人に見せるなら、古いものの方がいいかなぁ」
「俺はここを出られない。置き去りの俺に外の居場所はねェンだよ」
「でも、外出許可くらい……」
「無理だろォな、学園都市にとって俺は逃がしたくない存在だ」
「……?何故、ですか?」
「レベル5で、第一位だからだ。そうそう出られる筈ない」

みょうじは言葉を失った。
水槽の魚だ、と一方通行は思う。
学園都市に飼いならされて、一生水槽から出られない魚。
せめてみょうじが外の人間でなければ、こんな時でなくても学園都市にいられたのに。

「じゃあな、みょうじ」

みょうじの返事を聞かないまま、一方通行はその場から立ち去った。




to be continued...
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