長編

□現在
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数日が経過し、ナマエは本調子を取り戻し始めていた。
のんびりと休日を過ごしていると、一方通行が何か思いついたように申し出た。

「快気祝いに何か買ってやるよ」
「え!」

意外な申し出だったのか、眼前のナマエは目をぱちくりとさせている。
快気祝い――実際、それは大義名分だった。
世話にもなっていることだし(これも口実である)たまには何か欲しいものを買ってあげたい。
一方通行はふとそう思ったのである。
悪いよ、と遠慮するナマエを家事労働の対価だと思えばいいと言い含め、手近なセブンスミストへ足を運んだ。

「服だのアクセサリーだの、欲しいモンあるンじゃねェの」
「ううーん、今は特にないかな」
「ま、見てりゃ何か出てくるだろ」
「そうだね」

着いた先のレディースフロア。
買ってやると申し出たのは一方通行とはいえ、彼は後悔していた。

――居心地悪ィ。

到着して早々にげんなりしている一方通行。
当然ながら店員も客も女性ばかりなのである。
たまに彼女に連れてこられた男性客を見かけるが、一方通行は彼らを心強く思った。
無論赤の他人の存在がこんなにも有り難くなったのは初めてだ。
しかしながら店をまわる男女がカップルであると判断したように、

――端から見りゃ俺らもカップルに見えるンかねェ。

彼は複雑な気分でナマエの後をついてまわった。

「どうかな?」

ナマエは自分の身体に淡い色のワンピースを当てて見せに来た。
どうやら一方通行の意見を聞きたいらしい。

「どォって……」
「……そっか、あまり着ない系統だしなぁ」

一方通行が言葉を濁らせていると、似合わなかったのだと誤解されてしまったようだ。
ナマエはワンピースを棚に戻してしまった。
一方通行は苦悩した。
自分は彼女を意識しすぎているのだろうか。
この買い物、意見を仰がれると自分の好みを言うようで気恥ずかしい。
しかし誤解によりナマエの顔を曇らせてしまった罪悪感。
一方通行はジレンマに陥っていた。
結局彼は自身のプライドよりナマエを選んだ。

「いや、そォいうのもイインじゃねェの」
「ほんと?」
「俺が世辞を言えると思うか?」
「言えないね」

説得力ある、とナマエは小さく笑った。
それを見て心中で胸を撫で下ろす。

「それにするか?」
「んーと、一通り見てからがいい」

これが女の買い物は時間が掛かるたる所以か。
一方通行はナマエに悟られないよう溜め息を吐いた。
その後も意見を聞かれる度に一方通行は自分の中の何かが磨り減って行くのを感じていた。
ある程度の店をまわった頃だろうか。
ナマエは通りがかったジュエリーショップのガラスケースを眺めている。
一方通行は隣に並んでケースを覗きこんだ。
その中にはプチネックレスが並んでいる。

「目ぼしいモンでもあったかァ?」
「いいいや、とんでもない!」
「露骨な反応だな」
「欲しいんじゃなくて憧れだよ。宝石なんて贅沢品」

そう言うも、ナマエはケースの中の物に見入っている。
どうやら遠慮しているらしい。

「贅沢っつっても此処にある程度だろ?」

ちらりと値札に視線をやる。
学生でもちょっとお金を貯めれば買える値段である。
宝石としてはお手頃な部類だろう。

「どれだ?」
「……え」
「折角だからオマエが普段買わねェモン買ってやるよ」
「……ええと、でも」
「少しは感謝だとかの形を受け取りやがれってンだ」

言葉遣いや態度は感謝もへったくれもないものだったが、ナマエは照れ笑いをして答えた。

「………じゃあ赤いのがいい」

一方通行は店員を呼びつけて赤い宝石のついたプチネックレスを頼んだ。

「ありがとう、宝物にするね」
「ハッ……大袈裟なンだよ」

一方通行はつっけんどんに返しながらも思っていた。
幸せそうな彼女の表情に、居心地悪い思いしても来た甲斐があったと。




帰り道に二人はゲームセンターへと寄っていた。
ナマエがアクリル越しにぬいぐるみの山を睨んでいる。
それはUFOキャッチャーというポピュラーなゲーム機だった。
硬貨を入れ、真剣な表情でボタンを操作するも、アームは力が入らないようにぬいぐるみの輪郭をなぞるだけだ。
そこに他所を見ていた一方通行が寄ってくる。

「アームの強度が悪ィな」
「だよね!」

ナマエは力強く頷く。
そして白兎を指し、悔しそうに嘆いた。

「このウサギ、あなたに似てると思ったんだけどなぁ」
「色が、だろ」
「正解。あと目とか」

確かにナマエの狙うウサギは他のぬいぐるみよりも目つきの悪い仕様になっていた。
一方通行は複雑そうに頷く。

「……否定できねェな」
「でしょ?」

一方通行は舌打ちをして尻ポケットから財布を取り出す。

「オマエ、これ取ったら要るか?」
「い、いる!」

ナマエの返事と同時に、硬貨を入れた。



数分後、ナマエの腕には先ほどのウサギが抱かれていた。
彼女は御満悦の表情を浮かべている。

「すごい!こういうの得意なの?」
「ハッ。物理の計算なンざ楽勝なンだよ」
「ぶつり……?」

ナマエはキョトンとしている。

「あなたにとってこれは頭脳労働だったの?」
「あァ、そンなモンだろ?」
「いやいや、他の人は計算してないよ」
「ふゥン」

そんなもんか、と一方通行は呟く。
ナマエはまじまじとウサギを見た後で、小さく息を吐いた。

「なんか、今日はいろいろ貰っちゃって悪いなぁ」
「快気祝いってことで気にすンな」
「あなたは何か欲しいものないの?」
「…………ねェな」
「だよねぇ。お金あるから欲しいものあったら買うよね」

とはいえ貰いっぱなしというのも気が引ける。
しばらくお金で買えないものを考えてみるが、良いものは思いつかなかった。
ナマエはせめてもの意味合いで一方通行に言った。

「よし、とりあえず晩ご飯のリクエスト受け付けるよ」
「……ハンバーグで」
「いいよ。帰りにスーパー寄ろうね」
「あァ」




to be continued...
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