長編

□現在
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彼は一方通行、と名乗った。
学園都市レベル5の第一位。
超能力者の頂点。
学園都市一の優等生。
一見羨ましい称号だが、そういった特殊な立場には大抵孤独やしがらみがつきまとう。
彼はレベル5であるがゆえに悩み苦しんで生きてきたのではないだろうか。

男の子が泣くのを見るのは久しぶりのことだった。
もう夜も遅い。
消灯して横になる。
一方通行はベッドのすぐ隣にある炬燵で寝かせることにした。
私は彼を信用しすぎたかもしれない。
親に知られたら説教ものだとぼんやり思っていた。
夢うつつになって来た頃、彼が身体を起こしたのに目を覚ました。
不安げにこちらを窺っているように見えた。
普段の彼は知らないが、今彼は弱っている。心細い場所にいるのだ。

「どうしたの」
「あいつを置いてきちまった」

あいつとは、一年前に会った方の私のことだろう。

「来ていいよ」

不思議と抵抗はなく、細い身体を寝床へと招き入れた。
しばらく毛布の中で俯いていた彼は私を見て言った。

「なァ……俺を一人にっ…しな、いで…くれ」

一方通行の赤い瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。

「ァ………くゥ、ふ」

嗚咽し、涙を腕で拭う彼を制す。
そして背中に腕をまわしさすってやる。

「我慢しなくていいよ」
「だいじょうぶ。私はあなたを一人にしない」

本当は、私自身が欲した言葉だった。

「だいじょうぶだよ」

ナマエは優しく言い聞かせてやるが、一方通行は内心信じられずにいた。

――そう言って一人にしたじゃねェかよ!

この晩、鍵の開かぬ部屋に帰るまで一方通行は確かにひとりだった。
絶望と喪失感でいっぱいだった。
でも、ただ一つの幻想を壊せずにいる。
それを言ったら、今すぐにでも一人になってしまいそうで。
結局、今の彼にはナマエの胸で子どものように泣くことしかできなかった。




「オマエは一年後、また俺を置いていくのか」

翌朝。
目を伏せ、苦しげな表情で一方通行は呟いた。

「一方通行……気になってたことがあるの。この部屋、あなたが持ってた鍵じゃ開かなかったって言ってたよね」
「あァ」
「たぶんそれ、私が春に部屋の鍵落としちゃって…見つからなかったから鍵変えてもらったせいだと思う」
「それは、オマエが俺の知るナマエよりそそっかしいっつゥことかァ?」

調子を取り戻そうとしているのか、一方通行はニヤリと笑ってみせる。
初めて見た彼の笑みに少し安心した。

「そうじゃなくて!一方通行がいた世界とはちょっとずつズレがあるんじゃないかな」
「……並行世界ってェやつか」
「そうそれ。原因はわからないけど、あなたは今までと少し違う過去にいる。私も違う運命を辿る」

一方通行の目を見る。
決意を帯びた光が入っていた。

「きっと私は、一年後もその先も此処にいるよ」
「……今度は、死なせねェかンな」
「うん……」

白く輝く髪を撫でる。
この子を一人にしたくないと思った。

――ひとりにしないで。

そう願い続けていたのは私の方だ。
恐らく、私たちの根底にあるものは似ている。
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