長編

□現在
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明け方、蒸し暑くなってふと目を覚ました。
隣のベッドで眠るナマエは穏やかな寝息を立てている。
その腕には先日一方通行がゲームセンターで取ってやったウサギが抱き締められていた。
よくもまぁこの暑さで毛玉を抱いて寝られるものだ。
一方通行は溜め息を溢した。
そして熱量を反射しつつ冷房の電源をつける。

「……」

ナマエの腕をじっと見つめる。
自分と同じ赤い瞳と目が合った。
ウサギからざまぁみろ、と言われている気がして無性に腹が立ってくる。
こんな毛玉よりも、自分を選んで欲しいのだ。
これが一方通行に似てるのならば自分でいいじゃないか。
柔らかい自信はないけれど。

「……っ!」

一方通行は衝動的にナマエの腕からぬいぐるみを引き抜いた。
そして床に向かって思い切りぶん投げる。
ウサギは部屋の隅へと転がった。
一方通行は鼻を鳴らしてナマエを見下ろした。
彼女は腕にあった感触がなくなったことに気づいたのか、もぞもぞと腕を動かしている。

「ウサギを探してンのか?」

――俺でなくてあのウサギがイイのか?

一方通行はナマエの顔を覗き込んだ。
そこにぴた、と生ぬるい彼女の手が首筋に当たる。
抱き締めるものを見つけたように彼女の腕が伸びてきた。

「……っ、」

一方通行は驚いたものの――身を引くことはなかった。
そのままナマエの腕に首を絡めとられ引き寄せられる。

「んん……」

頭の上でナマエの息が漏れた。
なにやらそれが色っぽく感じられ、心音が騒ぎ始める。
そして一拍遅れ、一方通行はナマエの腕から抜け出せないことに気がついた。

「……どォしたモンか」

一方通行は溜め息を吐いた。
上半身だけ引き込まれては辛い姿勢だ。
結局、彼は足ごとベッドへと潜り込ませることにした。
ナマエを起こさぬよう足を滑らせていく。
俺のせいじゃねェぞ。
翌朝の彼女の反応を予想しつつ、彼は弁解した。
困惑しながらも一方通行の頬は緩んでいた。
胸のあたりがじわりと温かくなる。

――……うれ、しィ。

ナマエはちゃんと自分を選んでくれた。
彼女の近くにいると安心する。
一方通行はそっと目を閉じた。




カーテンから柔らかい日射しが差し込む。
一方通行が微睡んでいると頭の上から声がした。

「……ん……え?なんで?」

その声に一方通行は寝続けることを諦め、欠伸をした。

「オマエが引っ張ったンだよ」
「寝てる一方通行を?」
「……いや、起きてたけど」

その返答に納得のいかないナマエは頭を悩ませた。
一方通行の首に巻き付いた腕も離していく。

「ううーん……なんでこんなことに。ごめん、寝苦しかったでしょ」
「ンなこたァねェよ」
「んなことあると思うけどなぁ……あっ」

ナマエはベッドの辺りを見回した。
焦燥の表情を浮かべている。

「ウサギがない」
「ウサギ?……あれだろ」

一方通行は部屋の隅を指差す。
その先には彼に投げられたウサギのぬいぐるみが転がっていた。
彼にはそれか恨めしげに見ているように感じた。
ナマエは悲嘆の声を上げながらベッドから下り、ウサギを取りに行った。

「ああー、寝相悪くて投げちゃったのかな……。ごめんね。」
「……はァ?」

一方通行の疑問符はナマエが彼に向かって謝ったからだ。
ナマエはウサギを拾い上げながら申し訳なさそうに言った。

「だって、あなたがくれたのに」
「あれは、オマエの代わりに取っただけだろ」
「それでもだよ。あなたがくれたから大事にしてたつもりだったんだけどなぁ」

ナマエは溜め息を吐きながらベッドに座った。
一方通行に罪悪感が芽生えてくる。
彼女は自分があげたぬいぐるみを大事にしていたというのに、勝手にぬいぐるみに苛立って投げてしまった。
しかもそれを自分のせいだと思い込み、気を沈ませてしまった。
一方通行は舌打ちをした。

「……俺が投げたンだよ」
「え?……どうして?」
「……」

一方通行は黙り込む。
ナマエに抱かれているぬいぐるみに嫉妬した、などと言えるわけがない。
悩んだ末、苦し紛れにぼそりと呟いた。

「なンか知らンがムカついた」
「……?」

ナマエは理解ができないといった風な反応だ。
だが八つ当たりや同族嫌悪なのだろうか、と適当に当たりをつけた。
そしてウサギを投げたのが自分でなくて良かったと思う。
ぬいぐるみを気の毒に思う気持ちもないこともないが、一方通行に嫌われる要因になりうると考えたからだ。
お詫びの気持ちを込めてナマエは無言でウサギを撫でた。
アクリル越しには気づかなかったがこのウサギ、手触りが良いのだ。
ついついずっと撫でていたくなってしまう。
一方通行はしばらくそれを眺めていたようだが、やがてナマエの肩に頭を乗せた。

「……ん?」

彼女は白い頭に目を向けた。
彼は無言で首の辺りにぐりぐりと押し付けてくる。
ナマエはその意図を考え、白い猫っ毛を撫でてみた。
ウサギにも負けず劣らずの触り心地だった。

「こう?」
「……」

白い塊が頷いた気がした。




to be continued...
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