長編

□現在
23ページ/23ページ





部屋にいた男達は7人。
皆下卑た笑みを浮かべこちらを見ている。
馬鹿にしたような声が響いた。

「第一位サマのご帰宅かぁ?」

ギリ、と歯ぎしりをする。
低く、唸るように一つ訊ねた。

「ナマエは。女はどォした?」

震える拳をギリ、と握りしめた。
返答次第では生かしておけない、と思った。
スキンヘッドの奴が口を開いた。

「あ?アイツは――アレだよ。倉庫に連れてったよ。今頃ボッコボコにされてンじゃねぇの?運悪けりゃキズモノかぁ?ヒャハッ!残念だったなぁ!お前の大事な女、今頃第一位サマの名前呼んで泣いてるぜ!」
「……良かったな、オマエの寿命が伸びたぜ。倉庫の場所ォ、訊かなきゃいけねェモンなァ」
「ふはっ。教えると思うか?」
「どっちにしろ死体決定なンだよクソ野郎があああああ」

激昂と共に鉄パイプが襲いかかった。
無論、それは反射により男たちの腕を折る結果となる。
痛みに呻くスキンヘッドの胸倉を掴み、引き寄せた。

「吐けよ、その倉庫の場所」
「ひ、……は、馬鹿じゃねぇの。嘘に決まってんだろ?」
「この場合、口が固いってェのは損するぜ」

スキンヘッドの足を軽く蹴り、骨を砕いた。
変なスイッチが入ったらしい。
伝わる嫌な音に口端が吊り上がるのを感じた。
冷静さを失っていくのがわかる。
殺、す。倉庫の場所を聞いたら殺す。
圧倒的な殺意に頭が塗りつぶされていく。
ナマエを、すぐ助けに行かなければいけないのに。

「っがぁああああああ」

骨を砕かれた足の痛みにスキンヘッドが叫び声を上げた。

「言えよ!タコみてェになりたくなけりゃあなァ!」
「し、知らな、ほんとに」
「知らないで済まされると思ってンのかオマエ。誰ェ敵にまわしたかわかってンだろ?」

スキンヘッドは涙と鼻水に濡れ情けない顔を晒していた。
忌々しくなってソイツの顔を床に叩きつける。

「ッぐぅ……」
「言えよ!オラ、女はドコだっつってンだよ!!」

周囲の男たちが後ずさるのがわかった。
助けるも見捨てるも好きにすればいい。
部屋から逃がす気はないが。


その時、暗い部屋に光が差した。
玄関のドアが開かれたのだ。
そこから覗いたのはナマエだった。
その背後には名前は知らないが見たことのある女がいる。

「ナマエ!」
「一方通行……?」

ナマエが連れて行かれたというのは、スキルアウトのハッタリだったようだ。
ドアに向かい金髪が駆け出した。
そしてポケットからサバイバルナイフを取り出し、ナマエに振り上げた。

「ッハ!人質さえいりゃ……」
「させるかよ」

冷めかけていた怒りが再び沸騰した。
床とトン、と蹴る。
ベクトルを操作することで冷蔵庫をスライドさせた。
轟音、後に衝撃が響き渡る。

「がぁ……う……」

金髪は壁と冷蔵庫の間に挟まっていた。
息はあるが相当の衝撃を受けた筈だ。
その後にいた男たちは後ずさっている。
ナマエが姿を見せたことで俺は冷静さを取り戻した。
まだ怒りは収まっていないが、ナマエが見ている。
このクズ共をどォ処分するか。
考えていると廊下が騒がしくなってきた。
ようやく警備員が来たようだ。





ナマエの後にいた女はアパートの隣人だった。
どうやらナマエはスキルアウトが部屋に入る前に、ベランダから隣部屋に逃げていたのだった。
そのナマエが何故玄関から現れたのかというと。

「警備員が来るまで待った方がいいって言ったのに、同居人が帰ってくるからって聞かなくて」

隣人はそう言って溜息を吐いた。
俺も呆れ返った。

「悪ィ。迷惑かけた」
「ごめんなさい」

二人で謝るが隣人は気にした風もない様子だった。

「いえ、お二人とも無事でなによりです」

冷静にそう返すと再び自分が借りる部屋へと帰って行った。
それを見送るとナマエに向き直る。

「怪我ァないンだよな?」
「うん、ありがとう……ちゃんと守ってくれたね」
「ハッ。第一位の心配する奴なンざオマエくらいだよ」
「……あなたの味方って言ったから」

俯き加減にナマエは言った。
その顔色が悪いことに、一方通行は先程の暴虐を思い出す。
段々と全身の血の気が引いていくのがわかった。
見られた。
怖がられた。
拒絶されてしまう。
潮時か……。
彼は決めた。
元々無理に許容されてた同居だった。
これ以上一緒にいたらナマエが傷つく。

「無事でよかった。悪かったな。巻き込んで、ンなトコ見せて。オマエのことはこれからも守るつもりだが、もォ近付かねェから……安心してくれ」
「え……?」

遠くからナマエに関わることなく守る。
ひとつ心に留め、背を向けた。
この二人暮らしももう、終わりだ。
でもナマエが無事なら。
守るという決意があるなら。
それも悪くないような気もした。
一人でも、耐えられると思った。
そう思い聞かせ、情けない顔にならないよう歯を食いしばった。
そして歩き出した時、悲痛さの滲んだ声が聞こえた。

「置いてかないで!」

足を止めた。
振り返ろうとすると、ふらりとナマエが背中にすがってきた。
背中越しに涙声が聞こえた。

「今まで、さっきみたいに戦ってきたの?」

頷く。
此処には第一位の称号がある。
血の気の多い奴らは俺を放っておかない。
スキルアウトだけじゃない、研究者共もだ。
誰がいつ敵にまわるかわかったものじゃない。
俺がいればナマエは危険に晒される。
ねぇ、とナマエの声がした。

「引っ越そう。もうこんなことしなくていいように、安全なところに住もう。それで、また一緒にいようよ」

こんな目に遭っても。
まだ、一緒にいたいと思ってくれているのか。
俺を必要としてくれるのか。
背中越しに伝わる温もりに目頭が熱くなる。
閉じた目から一筋、涙が零れた。
振りほどいた方が、ナマエの為とわかっているのに。

「あァ」

ナマエの傍にいたい。
ずっと一緒にいたい。
そのエゴが勝ってしまった。




to be continued...
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ