長編

□現在
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とある1DKに電子音が鳴り響いた。
ナマエは雑誌を眺めていたが、慌てて携帯を取る。
友人からの着信だ。
一方通行は起きてはいたが、ナマエは気遣ってダイニングへと移動した。

「もしもし。珍しいね」
「ナマエ?ちょっとレポートで聞きたいことあってさ」

電話の相手はトモだった。
締め切りの近い課題があったので、それのことだろう。

「んーと、私は図書館で資料探して……英語?そっちはまだ」
「うん、え?猫?あ、相変わらずかな。こっ、今度?!」
「はいはい……じゃあね」

電話を終えたナマエが寝室に戻る。
人の会話に言及するのはどうかとは思うが、一方通行は聞いてみることにした。

「猫がどォかしたかァ?」
「えッ……」

まさか聞いているとは思わず、ナマエは言葉に詰まる。

「なンだよ?」
「友達に、まさか男性と住んでるとは言えなくて……猫と住んでるって言ったの」
「はァ……」

確かに同棲のイメージは交際関係のある男女がするものだ。
ましてや恋人でもない男と住むなど、派手なタイプでもないナマエには本来ないことなのだろう。

「まァ当然の判断かもなァ」
「だ、だよね。あなた猫っぽいし」
「……」

猫っぽい。
その言葉に一方通行は難しい顔をした。

――どォいう意味だ。

仮にも男としてちょっとひっかかる。
ナマエは気にした様子もなく話を進めた。

「で、それはいいとして……今度見に来たいって」
「あ?」
「猫を」
「……どォすンだよ」
「予定は未定、でこのまま流れてくれないかなぁ」
「逃避すンな」

トン、と軽いチョップをお見舞いした。
あう、と控えめなリアクションが返ってくる。

「まぁ本当に来たらさ、騙す訳にもいかないよね」
「あァ」
「計画が立ちそうだったら言うよ」





「でさ、ナマエ。愛しのにゃんこには明日とかどうかなって」

昼休み、仲のいいグループで昼食を取っている時にトモは切り出してきた。

「ごめんその話、後でいいかな?」
「……んぁ?まぁいいけどさ」
「なにナマエの家、猫いるの?」
「飼い始めたんだ」
「へぇー猫は静かでいいよね。私犬飼いたいんだけどなかなか」
「私はうさぎー。でも寂しいと死んじゃうってほんと?」
「嘘だから安心しな」

たまたま他に猫派はいなかったようだ。
正直、助かった。
同居のことを話してしまう人は少ない方がいい。
5分前のチャイムが鳴る。
丁度よいことに次の講義を取っているのは私とトモだけだった。
教室へと移動しながら話を切り出した。

「で、猫の話だよね」
「そう、猫だよ。どうしたのさ、込み入った話?」
「申し訳ない。私嘘ついてて」
「え」
「猫っぽくはあるんけど……男の子と暮らし始めちゃって」
「ゲホッ!ゴホッ……ナマエが同棲だと……?」

トモがわざとらしく噎せる様子を半眼で見ながら言っておく。

「付き合ってるわけじゃないからね」
「へぇ」
「弟、みたいな感じかな」
「はぁ」

トモは納得いかないようだ。
ジト目になってこちらを見ている。

「やっぱりあんまりいい感想は抱かないでしょ?皆には内緒にしてて欲しいなぁ」

パン、と両手を合わせお願いのポーズを取ってみる。
トモはうなるように考え始めた。

「んー…ナマエの家行ったことなかったし……英語の課題したいし……」
「……ん?」
「会ってみたい、その弟みたいな子」
「え」
「場合によっては邪魔するかも」
「邪魔って何の…?」
「同居人が下心、持ってたら危ないからねぇ〜」

トモは教室のドアを開け、ナマエが入るのを待って閉めた。
ありがとうと言いながらナマエは困惑していた。

――大丈夫…だよね?

下手したら一方通行が出ていくよう仕向けるのだろうか。
だとしたらそれは怖いことだ。
彼によって今の私は孤独が軽減されたのだから。
まぁ多分大丈夫、と楽観的に構えよう。
黙っているとトモが顔を覗き込んできた。

「ん、心配?同居人って人見知りするタイプだったりする?」
「それは大丈夫………だと思う」

心は開きにくいタイプだけれど。




To be continued...
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