長編

□過去
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頭がぼうっとする。
容態は昼より酷くなった気がする。

「8度3分……明日下がらなかったら病院かな」

最初から行くつもりだったっというのに。
熱い息を吐きながら思う。
ナマエは心配そうに器を持ってきた。

「お昼の残りの雑炊食べてください」
「食べ、たくねェ……」
「少しでいいから」

――のど痛ェ。頭がガンガンする。食欲もねェ。

だるい身体を起こし、手渡された雑炊を食べる。
卵とほうれん草が入っていた。
昼にも食べたが悪くない味だ。
家庭の味というやつなのか、優しくてほっとする。

「ごちそォさン」
「……」

ナマエは目を丸くし、頭を撫でてきた。

「……っ?!な、にすンだよ」
「ごめんごめん。あなたはごちそうさまを言える子だったんですね」

ナマエは洗い物をしに台所へ行った。
残された一方通行は戸惑っていた。
何故、頭を撫でられた時心地いいなんて思ったのだろう。



「ケホッ……」

咳が出てきた。眠れない。
ぼんやりしてきたと思ったらすぐに咳で起きてしまうのだ。
ベッドの下にはナマエがこたつで寝ていた。
こんな奴は何かと損をすると思う。
そのまま居座ったのは自分だが、病人とはいえ初対面の男を家に上げた挙げ句、ベッドまで譲るとは。

――寂しいんじゃないですか?

不意に昼間のナマエの台詞を思い出す。
寂しい?
ずっと一人でいたこの自分が、人といたいだと?
信じられなかった。
この女の妄言だと思った。
でも――もっと撫でられていたかった。
額に触れた手が心地よかった。
何年ぶりかに触れた、人だった。
胸がきゅうと痛む。
風邪の症状にはない。
まさか…嘘だろう?
そんなの自覚したくなかった。
十数年間一人で生きてきて。
全てを拒絶する力を持って。
誰も信用せず無関心でいて。
ここにきて――人が、恋しいだなんて。
今日の自分はおかしい。
きっとこれは熱のせいだ。
胸が痛むのも、人が恋しいのも。

「寝てる……よな」

小声で呟く。

「起きてますよ?」

小声が帰ってきた。
予想してなかった展開にびくりと震える。
なんて言えばいいか、なんて言ったらいいかわからなかった。
視線が薄暗い部屋をさ迷ううちに、布団から手が出ていた。
ナマエは身体を起こし、その手を優しく握る。

「だいじょうぶ?」
「ン……」

――なンでこいつは、して欲しいことがわかったんだろう。

柔らかい手に握られてほっとする。ここにいて良いのだと言われてるような気がした。
ナマエは俺が眠るまで手を握っていた。




To be continued...
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