長編

□Chapter3
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「……」

着信音で一方通行は目を覚ました。
薄暗い部屋、見慣れない天井にそうだ此処はホテルだったと思いだす。
気だるそうに携帯電話の通話ボタンを押すとナマエの声が聞こえてくる。

「もしもし、起きた?おはよ」
「……ンー、あと1時間待て」
「1時間?!もう待てませんー!引っ越し先探しに行かなきゃ、ね?」
「……あァ、今起きる」

一方通行は通話を切り、厚いカーテンを開けた。
一気に射し込んできた朝日に顔をしかめる。
昨晩は眠るまでに時間がかかった。




警備員が帰った後、二人は貴重品や衣類を持って家を出た。
向かう先はファミリーレストランと、ビジネスホテルだった。

「シングルを2部屋お願いします」
「……?!」

ずっと同じ部屋だったのに。
一方通行は不満げな視線を向ける。
それに対し、ナマエは気まずそうに呟いた。

「だって、やっぱりまずいでしょ」
「……」

今更じゃねェの、とは思ったが一応異性として見られていたらしい。
異性として意識されるならば嬉しいので一方通行は黙っておいた。
部屋が隣だったのがせめてもの救いだ。

「今日は疲れたな」
「うん、やっと寝床にありつけるよ」

そう言ったナマエはこちらを見て困った顔をした。

「そんな顔しないのー」
「……?変な顔してたか?」
「変じゃないけど、別れがたくなるような顔?」

どんな顔だ。
寂しいのが顔に出てしまったのだろうか。
少し考えているうちに部屋の前に着いてしまった。
ドアノブに手を掛け二、三言交わす。

「おやすみ」
「……オヤスミ」
「また明日」
「ン、明日な」

ナマエが部屋に入るのを見届け、一方通行も部屋へと入った。
シャワーを浴びるのもそこそこにし、一方通行は床に着く。
ぴしりとメイキングされたベッドシーツを寝心地の良いようにかき乱していく。

疲れているのに物足りない気がしてなかなか寝つけない。
そこで彼は気づく。
俺、ナマエに依存しきってンな。
息を吐いた。
胸が締めつけられる。
一人の夜は哀しかった。
ナマエに会うまでは、当たり前のことだったのに。




ホテルを出るとまっすぐ不動産へと向かった。
隣を歩くナマエの、前後する手に目をやる。
徐々に近づけ、手を繋いだ。
冷たくなってはいたが、すべすべして柔らかい。
ナマエは何も言わず笑ってみせた。

「新居の希望条件を挙げるね」
「言ってみろ」
「即入居可と、オートロック、脱衣場、個室は2つ。あと日当たりとか諸々」
「2つ……」
「今までは部屋が狭かったけど、これを機に、ね」

言い聞かせるようにナマエは言う。
一方通行は眉間に皺を寄せた。

「……。部屋に篭るなよ」
「うーん。となると2LDKが過ごしやすいかな……予算が不安」
「俺の口座ありゃ大丈夫だろ」

やはり寝室は別室だったか。
一方通行は苦虫を噛み潰した。
ホテルで2部屋取った昨晩からそんな気はしていた。
異性として扱われることに嬉しさを感じる反面、ここにきて距離を置かれることに寂しさを覚えた。

不動産の学園都市内でのチェーン店に入る。
先程の希望を店員に告げると、店員はパソコンに入力し始めた。
検索結果を鑑み、印刷された物件情報をテーブルに広げた。

「この部屋などカップルに人気なようですがどうでしょう」
「はっ……!?」
「えっ……!?」

カップル、という言葉に一方通行とナマエが声を上げ、互いに顔を見合わせる。
店員はしまった、という顔をした。
しどろもどろになり頭を下げる。

「あ……、失礼致しました」
「いえ………」
「この部屋などが条件に合いますがどうでしょうか」
「ええと、築年数は」

店員とナマエが話している横で、一方通行は椅子に凭れた。
ンなわけねェだろォが。
そんな関係になりたいとは、思っているけれど。
片手で目を覆う。
皮膚が熱を持っていた。
顔を覆った指の隙間からナマエがちらりとこちらを伺うのが見えた。
彼女も先ほどの店員の発言が効いたらしい、挙動不審だ。




内見も済ませ契約は終わった。
まだ時間はあるようなのでこれから家具を見繕いに行く。
ナマエには学校がある。
今日はやむを得ず欠席したが、早く引っ越してしまいたかった。

「今日はありがとう」
「あァ?」
「いやー、初期費用とかもろもろ出してもらっちゃって」

ナマエは申し訳なさそうに頬を掻いている。

「今まで食費しか入れてなかったからよォ、その分の家賃だと思ってくれりゃイイ」
「しかしそれも新しい家具代でオーバーしそうなんですが」
「イインだよ。オマエより俺のが家にいる時間は長ェ」
「ああーそっか」
「ハナからオマエの金をアテにしてねェし」
「……うん、でも引っ越しを言い出したの私だし」
「オマエが言わなくても俺が言ってた。どっちみちあの部屋には住めねェンだよ」
「うん……」

浮かない顔のナマエを撫でる。
指に絡む猫っ毛が心地よい。

「オマエが気にするこたァねェンだ」
「……うん」




夕方、二人はファミリーレストランにいた。
今晩まではホテルに泊まることになっている。
家具屋では優先順位を考え、まず寝具を揃えた。
明日にでも新居に送ってもらうことになっている。

「明日から学校行きたいからさ、ベッドとか受け取ってもらっていいかな?」
「もォ行くンかよ。もう少し休ンだってイインじゃねェか?」
「休んでられないよ。授業遅れちゃうから」
「……ふゥン」

一方通行は最後の肉を口に含みながら相槌を打った。
もう少しくらい休めばいいのに、とは思う。
だがナマエは『こういう気質』なのだろう。
彼女のそういった所が一方通行も嫌いではない。

「幸い明日は金曜日だし、土日に他の家具も見に行こっか」
「おォ」

清算を済ませ、店を出る。
ナマエは吹きつけた夜風に首を竦めた。
それを見た一方通行が手を差し出す。
一見細いけれど、ごつごつした彼の手は温かい。
能力のせいもあるのかもしれない。
ナマエは小さく笑った。
ぶっきらぼうな少年が、自分から手を繋いでくれるのが嬉しくて。




to be continued...
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