長編

□Chapter3
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2月、多くの男性陣と同じく一方通行はそわそわしていた。
本日は14日、バレンタインデーだ。
恋をする者も恋愛に縁のない者も「あの娘から貰えるだろうか」「秘かに自分を想いを寄せた少女がいるのでは」と期待をしていた。
一方通行も例にもれず、「まさか」「もしかしたら」の可能性を考えてしまっていた。

――まァ大方、義理なンだろォけどよ。

もしナマエがくれるチョコレートが本命だったなら。
男として彼女に好きになってもらえたなら。
どうしようもないほどの多幸感を得られるだろう。
いつか、想いを遂げた時を想像しながら一方通行は瞼を閉じた。




額に何か当たった感触に一方通行は薄く目を開けた。
ナマエが覗き込み、照れ笑いを浮かべている。
その様子が可愛くて少し胸が苦しくなった。

「ハッピーバレンタイン」
「……」

覚醒しない頭で今の状況を認識した。
今日はバレンタイン。ナマエがプレゼントをくれた。おそらく、チョコレート。
一方通行はぎこちない動きで額に乗せられた包みを受け取る。

「どォも。……開けるぞ」

リボンで結んだだけのラッピングパックを見つめた。
よかった、ナマエから貰うことができた。
針金リボンを解きながらナマエに尋ねる。

「手作りか?」
「うん、さっき作って帰ってきたとこだよ」

家には自分がいるので友人宅で作ってきたのだろう。
俺のために。わざわざ。
嬉しいと叫ぶ胸を押さえてハート型のチョコレートを齧る。
良い音を立てて折れたそれは砕かれたアーモンドが入っていた。

「甘ェ」
「甘すぎた?」
「たまになら丁度良いくらいだ」
「それなら良かった」

一方通行の感想を聞いて安心したナマエは台所へと向かった。
晩御飯の準備をするのだろう。
その様子を横目で見ながら、一方通行は袋からまたチョコレートを取り出した。

「……?」

取り出した、つもりだったのだが手に取ったのは一枚のカードだった。
メッセージカードの存在に今まで気づかなかったのだ。
心臓が一度だけドクンと跳ねた。
そしてカードを読んだ彼は大きく溜息を吐いた。

「いつも、ありがとう……ねェ」

やはり義理か。義理チョコなのか。
まぁこんなものだろうと、自分を納得させながら彼はメッセージカードを見つめた。
思えばナマエから貰った手紙はこれが初めてかもしれない。
一方通行はこっそりとカードをポケットに入れた。
ナマエにありがとうと言われることを、自分はなにかできただろうか。




「……あ?」

もうすぐ夕飯ができるという時、一方通行はテーブルに由々しき物を見つけた。
それは『上条くんへ』とシールを貼られた、先程自分が貰ったものと同じラッピングパックだ。
一方通行はこの不愉快な物の説明をさせるべくナマエに声を掛けた。
不機嫌というよりは寧ろ、殺気立ったものを放ちながら。

「これ、なンだよ」
「な、なんか怒ってる……?」
「別に怒っちゃいねェよ。これは、なンだ?」
「上条くんにもこの前はお世話になったから、明日あげようかなって」

先週の出来事を思い出し、一方通行は苦虫を噛み潰した。
上条でなく自分が彼女を助けることができたらよかったのに。
そしたら上条がナマエの胸に顔を埋める事態も回避できたし、勘違いした自分が余計なマネをせずに済んだ。

「……俺と同じヤツか?」
「うん、そんな感じだけど」
「ちょっと手ェ加えさせろ」

戸惑うナマエに対し、一方通行は唇を歪ませた。

「え……い、いいけど何か、至らないところがあった?」
「そォだな。オマエのは分かりやすさが足りねェ」

チョコペンはあるか、と訊ねるとナマエは冷蔵庫から白いチョコペンを出してきた。
念のために用意してはいたものの、結局は使わなかったようだ。
彼は能力を使いチョコペンを温める。

「義理なンだろ?なら相手がカンチガイしちまわねェよォにしねェと」

そう言って一方通行はハート型のチョコレートに大きく『義理』と書いた。
それを覗き込みながらナマエはぽつりと呟いた。

「……なんか、可哀想じゃない?」
「じゃあ『感謝』な。かァン、しゃ。これでイイだろ」

一方通行が二枚目に書いてみせるとナマエは首を傾けた。

「可哀想な感じはあまり変わらないような……書いたものは仕方ないか」
「そもそもオマエが義理チョコ手作りすっから面倒なことになンだろォが」
「あー、一方通行は市販のが良かった?お店のが確かに美味しいもんねぇ」
「……旨さの話じゃねェだろ。手作りだと本命って勘違いさせることになるっつってンだよ」
「そっかぁ。一方通行のもチョコペンで書いた方が良かった?義理って」
「ぐ……イインだよ。誤解してねェンだから……」

一方通行は溜息を吐いた。
それをナマエが見て困ったように笑う。

「あんまり溜息つくと幸せが逃げちゃうよ」

じゃあオマエが義理チョコを本命に変えて幸せにしてくれよ。
そんな台詞を彼は飲み込んだ。




to be continued...
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