長編

□Chapter3
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一方通行が学校から帰宅すると、ナマエは既に部屋の中にいた。
どうやら彼女の学校の方が帰りは早いらしい。
帰りを待っててくれる人がいるのはなかなか新鮮だ。

「おかえり。学校どうだった?」
「どォもなにも……知り合いはできた、か」
「えっ、生徒で?どうして?」
「用があって教室に来たンだよ。ギョロ目で変な喋り方する女のセンパイ」
「ちょっと濃い人なのね」
「かもな。でよォ、」

その先輩、布束との計画について話そうとし、一方通行は口を噤んだ。
妹達のことはもっと計画がすすんでからにするか。
まだ実験を断ってすらいないし、研究施設もない。
代わりにその後に食べた弁当のことを思い出す。あの可愛らしすぎた弁当を。

「弁当うまかったぜ」
「え?」
「なンだよ、変な顔して。うまかったって」
「いや……まさか素直な感想もらえるとは…へへ。そう言って貰えると作った甲斐があるよ!明日からもがんばっちゃう!」
「そりゃ有難いが、ウサギだの無駄に凝る必要ねェからな?」
「だめ?クマも?」
「変わらねっつの」

凝られるのは嬉しいが、人に見られるのはたまったもんじゃない。
一方通行はナマエに軽くチョップを入れた。
ナマエが後頭部をさすっているのを横目で見ているとポケットに入れた携帯が震えた。
久しぶりにトモからのメールだ。

『夕方、ナマエが上条くんとコーヒーショップにいたの見ちゃった。妬く?妬いちゃう?』
「……」

一方通行は眉根を寄せた。
返信するつもりはないため、携帯をポケットにしまう。
嫌な情報を入手してしまった。
ナマエはそんな一方通行の様子に気づかず、突拍子もないことを訊いてきた。

「ねぇ、一方通行はトモのこと好きなの?」
「……はァ?なンだよ、急に」

一方通行は眉を吊りあげた。
何故そんなことを訊くのか、一方通行には理解ができない。
メールの差出人を見ていたのか、と思うほどのタイミングの良さだった。
ナマエは一方通行の様子に怖気づいたのか、ためらいがちに言葉を紡いだ。

「何度か、私のいない時に会ってるみたいだから。気にしたら変?」
「……変じゃねェけど。別になンじゃねェよ。アイツが世話焼きだからじゃねェの?」
「年明け前になるけど、あの子、あなたに迫ってたじゃない。気を遣ってるのかもしれないけど、関係を隠されるよりは――」
「誤解したままだったのかよ!疑ってるンだろうが、そォいう隠し事はねェよ」

想い人に誤解されるなど、冗談じゃない。
一方通行は声を荒げた。

「この数カ月そォ思ってたってのかァ?」

ナマエは頷いた。
一方通行はわざとらしいほど大きく溜息を吐く。

「完全な誤解だ。この前のはアイツが勝手にじゃれてきただけで、これから先もどうかなる予定はない。いいな?」
「……わかった」

納得した様子のナマエに一方通行は安堵した。
そして良い機会だ、と考える。
ナマエと上条について、気になっていることを訊こう。
そしてはっきりさせてしまおう。

「……オマエこそ、上条のことどォ思ってンだよ」
「え。上条くん?」
「押し倒されて胸に顔埋められてたりバレンタインデーにチョコを用意してたじゃねェか」

言いながら一方通行は自分の眉間に皺が寄っていくのがわかった。
思い出すだけでも腹立たしい。
ナマエは否定するように両手を横に振った。

「押し倒されたのは事故だし、チョコは義理だって、一方通行がチョコペンで書いてたでしょ」
「そォだけど、はっきり義理とは聞いちゃいねェ。それに今日二人でコーヒー屋にいたってェ目撃談を聞いたンですけどォ?」
「……まさかトモに聞いたの?それは、今日は言えないかな。」
「はァ?どォいうことだよ」
「すぐにわかるから、今日は待って欲しいな」
「……チッ。ワケがわかンねェ」
「……もしかして、やきもち?」

かぁっと一方通行の顔が熱くなった。
図星だ。
俯いた一方通行に対し、ナマエはおずおずを口を開いた。

「ごめん、私も正直言ってね、やきもちっていうか……」

ナマエが言い淀んだ。
一方通行は小さな期待を抱いた。

「どちらかに好きな人ができたら、この関係は続けられないなってことに気付いてね……」

その言葉に一瞬、一方通行の思考は白に染まった。
そうだ。片方に恋人ができたならこの関係は終いだ。
そしてナマエの言うやきもちのようなものの正体に苦虫を噛み潰した。
ナマエは一方通行とトモが恋人になるのを恐れたのではない。
一方通行と暮らせなくなることを恐れたのだ。

――クソ。まだ、家族から抜け出せねェってのか。

「オマエに好きな奴はいないンだよな?」
「うぇ、あぁ、うん」
「……なら大丈夫だろ」
「よかった、一方通行もいないんだよね?好きな人」
「あァ、いねェよ」

嘘をついた。
だが肯定してしまえば想い人の名を言わない限り誤解と不安を生む。
一方通行はナマエの方をちらりと見やった。
なァナマエ。
オマエは気づいていないのか。
ずっと二人でいる解決法。
俺は一つだけ、それを知っている。




to be continued...
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