長編

□Chapter3
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夕方、一方通行の携帯にメールが届いた。
受信フォルダを確認する。
ナマエの帰りが遅くなるそうだ。
居間のソファに横になり、呟く。

「……どれくれェ遅いンだよ」

夕食は食べてて、と言わないあたり心配しなくてもいいのだろうが。
今日は24日。
世間ではクリスマスイブだった。
子どもたちはご馳走に大喜びし、恋人たちは甘い睦言でも囁き合っているのだろう。

――くっだらねェ。

ふと視線を移すとテレビ台に小さなツリーが置いてあるのに気が付いた。
気づかなかった。
置いたのはナマエだろう。
彼女もクリスマスを楽しみにしてる一人、か。
きっとナマエはここで祝ってくれる。
そう思うと自分がクリスマスを憎んでいられなくなるであろうことを感じていた。
19時近くになった頃だろうか。
玄関のカギを開ける音とただいまの声が聞こえた。

「ごめん、遅くなって」
「オカエリ。どォしたンだよ」
「友達の家でご飯とかケーキ作ってたの。もちろん我が家の分もあるよ!」

ナマエは満面の笑顔で持っていた袋を掲げた。
彼女が遅れたのはどうやら自分のためでもあったらしい。
くすぶっていた気持ちが晴れていく。
ナマエは袋からタッパーを取出し、夕食の準備を始めた。
食卓には温めなおしたパンプキンスープやフライドチキン、華やかに盛り付けたマリネ、ミ ートローフ、サンドイッチなどが並んでいる。

「ふっふふふ。余るだろうから明日までご飯に困らないね!」
「オマエはどれ作ったンだ?」
「スープと、これ。あとケーキかな。ケーキは後で食べようね」
「おォ」

小さな声でイタダキマスをして料理に手を付ける。

「初めて作ったんだけど口に合うかな?」
「……悪くねェ」
「ふふ、よかった」
「それとよ、こォやって過ごすクリスマスも悪くねェな」
「うん?」

ナマエは小首を傾げた。

「オマエに会う前は別に特別な日じゃなかったンだよ。いつもどォりにメシ食って寝るだけ。明かりも喧噪も憎いだけだった」
「……」
「ナマエと会ってからは、その、待ち遠しい。ありがとォな」

一方通行は自分の為にあれこれしてくれるナマエに感謝を言いたかった。
言う機会を逃してしまうと聞いてもらえなくなった時に後悔することを、彼は知っている。
神妙な顔で聞いていたナマエは身を乗り出すようにして言った。

「明日の夜はさ、街にイルミネーション見に行こうよ。今までの分楽しもう」
「……あァ」

これだから、ナマエには感謝してもしきれない。
自分を思ってくれる人など後にも先にも彼女だけだろう。
ただただ愛おしさが積もっていく。




ケーキは冷蔵庫にしまってあった。
食後、やや小ぶりなホールケーキが食卓に上った。
既製品のものと比べると拙いながらもよくできている。
包丁で切り分け、器に乗せる。
そこでナマエは思いだしたように声を上げた。

「そうだ、言い忘れてた」
「あァ?なンだ?」

ナマエはじっと一方通行の目を見た。

「メリークリスマス」
「……あァ。メリィ、クリスマス」

一方通行は戸惑いながら照れ臭そうに返すと、彼女は破顔した。
そこでふと、ナマエは時計に目をやった。

「そろそろかな?」
「ナニかあるのか?」

ナマエはカーテンを開けて振り向いた。

「8時から今日は雪だって」

一方通行は窓の方へ寄った。
マンションからは街の明かりが見える。
近くであればイルミネーションの様子も窺えた。
そこに六花がひらひらと舞いながら降りてくる。
ナマエが歓声を上げた。

「ホワイトクリスマスってやつだね」
「こォいうのも悪くねェな」
「うん!クリスマスに降ったのは久々かな?前のは覚えてないや」
「この辺雪降らねェしな。降らそォと思えば降らせるンだろォがな」
「積もらないかなぁ」
「この手の灰雪じゃ難しそォだな」
「そっかぁ。冬の間に積もるといいな」

ナマエは残念そうにしていた。




眠る前、ナマエは一方通行に話しかけた。
彼女はベッド脇に座り、彼の手を握っている。

「明日は午前中だけ出かけるね」
「なンかあンのか?」
「友達のクリスマスパーティが今日泊まりであったんだよ。私は準備と最後だけ参加しようかなって」
「行かなくてよかったのかよ」

ナマエは微笑して肩をすくめた。

「いいよ。少し参加できたし、一方通行がいるから」

一方通行は眉間に皺を寄せた。
自分のせいで、ナマエは友人との時間を犠牲にしているのか。

「オマエに無理させたのか、俺は」
「いいのいいの!好きで帰って来 たんだよ」

「好きで」の好きはどこにかかっているのだろう。
自分の為に帰ってきてくれたのだろうか。
それとも自分を選んでくれたのだろうか。
一方通行にはわからなかった。

布団を被ってから、一方通行は思い出した。
横のナマエをチラリと見やる。
プレゼント、渡し損ねちまった。
まぁ明日でイイか。
そして重くなった瞼を閉じた。




to be continued...
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