長編

□Chapter3
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大晦日、町を行く人々はいつもより少ないが、慌ただしい。
一方通行は予約していた鉢盛を受け取り、帰路に着いた。
ナマエは明日に備え、お節を作っている。

「ただいま」
「おかえりー。おつかいありがとうね」
「おォ。そっちはどォだ?」
「もうできてるよ。今は夕ご飯」

今日の夕飯は年越しそばだった。
一方通行が着ていた上着を脱ぎ、くつろいでいると台所から声がした。

「できたよー」
「おォ」

一方通行は返事をしながら器を取りに行く。
冬休みに入り、ナマエは家で過ごすことが多くなった。
彼女がいることで一方通行は心が安らぐのを感じる。
他愛もなく彼女と日々を過ごすことが何よりの幸せに思えた。

器がこたつの上に揃うといただきますをした。
ナマエはそばを啜りながら今年のことを振り返っていた。

「あなたが来たり、引っ越したり、波乱万丈な一年だったなぁ」
「……あァ。来年は何事もねェとイインだが」
「大丈夫、きっと平和だよ」
「……」

一方通行にとっては別れと出会いがあった一年だ。
良いとも悪いともつかなかった。
だが与えられた時を大事にしたいと思う。
もう後悔しないように。
二度となくさないように。

「あなたとこんな風に過ごせて、毎日嬉しいよ」
「こンな俺でイイのかよ。オマエが物好きで、助かったよ俺は」
「こんなって、あなたはちょっと愛想良くすれば人も集まってくると思うよ?」
「愛想良くした俺が見たいか?」
「私は見たいよ?」
「チッ……今のナシだ」

一方通行は舌打ちをした。
その様子にナマエは笑みを溢す。

「来年もよろしくね」
「……こちらこそ、な」

年明けまであと数時間だ。





「あけましておめでとう」
「…………でとォ」

元旦の朝はこのように始まった。
慣れない挨拶をしながら目をそらす一方通行に、ナマエは苦笑した。

「朝ごはんにしよっか」

お節や鉢盛、お雑煮など、いつもより豪華な朝食を一方通行は物珍しげに突いている。
その様子を微笑ましく思いながら、ナマエは口を開いた。

「今日は午後から初詣に行こうね」
「……あァ?確かに神社はあるが、本気で言ってンのか?」
「うん。行ったことないのかな?」
「ねェけど」
「行ってみようよ。私も学園都市の神社は初めて」

学園都市の人間が宗教施設に行く意味はあるのか。
無駄なことじゃないのか。
一方通行は疑わしげな視線を向けた。
楽しそうにしているナマエの手前、拒否しきれなかった。




午後、二人は第12学区に来ていた。
学園都市で最も神学系の学校が集められた場所だ。
地下鉄を降り、一方通行は億劫そうにマフラーに顔を埋めた。

「ほンとォに参拝に行くのか?」
「ここに来てどうしたの?」
「オマエは信じるのかよ。こォいうの」
「困った時の神頼みって言うじゃない。人知を超えた存在って信じたいものだよ」
「……」

一方通行には覚えがあった。
ナマエの死に際に立ち会った際、そして借りていた部屋に戻る際。
自らの力ではどうしようもない出来事に直面した時、彼は何者かに祈っていた。
その結果、最初は叶わなかったがナマエとの再会はどうしてか叶っていた。

「ま、イインじゃねェの。年に一回くらい」

地下鉄のホームを出ると、学区の通りが見えてくる。
同じ通りに異なる宗教施設が並び、独特な空間を築いていた。
教会や寺、モスクなどが立ち並んでいる。
その中で朱塗りの鳥居を潜った。
特に大きいとは言えない神社だが、結構な参拝客が来ていた。
参拝の列に二人も加わる。
学園都市の住人は科学主義的な価値観を持つだとか、非科学を信じない傾向があると聞くが、考えることは皆同じなのだろうか。
実家の慣習に習う人も多いのかもしれない。

賽銭箱が近付いた頃、一方通行は財布の札入れを見ている。
さすがレベル5、お賽銭に出すのだろうか。
ナマエは気になって聞いてみた。

「お、お札出すの?」
「賽銭って普通どの程度出すモンだ?」
「100円以下の小銭が多いと思う。御縁がありますようにって5円玉あたりが定番かな。会社の重役の方とか、大事な願い事がある人とかお札を出す人もいるけどね」
「ふゥン」

一方通行は財布に目を落とした。
大事な願い、ではある。
だが神なんてあやふやなものに頼ってはいられない。
守りたいものは自分の力で守るのだ。
願いというよりは宣言に近い。
金額は最小限で良かった。
一方通行は小銭を取り出し、放った。
二礼、二拍手し念じる。
どうかナマエの傍にいられるように。
これから何があっても彼女を守りきれるように。
隣にいるナマエは何を願ったのだろう。
彼女の顔を上げた気配に一方通行も顔を上げる。
最後に一礼し、列を抜けた。

「何願ったンだ?」
「ヒミツ。言ったら叶わなくなるって聞いたからね」
「そォなのか……」
「大したことじゃないよ。あなたと同じかもね」

思わず神妙な顔をした一方通行にナマエはクスリと笑った。
その言葉にナマエの顔を見つめた。
目を細め笑った彼女が少し寂しげに見え、無性に触れたくなる。
そっと手を伸ばし、彼女の冷たい手に絡めた。

これが二人のささやかな年末年始だ。




to be continued...
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