長編

□Side story
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※月の物ネタです。苦手な方はご遠慮下さい。




彼女の顔色は悪く、額からは脂汗が滲んでいる。
息も絶え絶えといった表現がしっくりくるほど、ナマエは消耗していた。

「なァ、大丈夫か?」
「あんまり……」

返事をするのも辛そうなナマエの様子に、一方通行は唇を噛んだ。
大事な人が苦しんでいる。
どうにかしてやりたい一心で再び彼は口を開いた。

「病院行こォぜ。連れてくから」
「いい……」
「……それ、ただ事じゃないだろ。痩せ我慢するンじゃねェ」
「そのうち薬効くから……」
「本当に病気じゃねェンだな?」
「ん」
「俺、ナマエに何かあったら……」

一方通行は不安げに呟いた。
目を閉じていたナマエはその様子を見てしまい罪悪感を覚えた。
彼は腹痛の理由を知らない。
あまり言いたくはないが、彼の心配を軽減させるために口を開いた。

「女性特有の……症状だから、あまり追求しないでくれると……」
「え?……あ、あ″ァー」

一方通行は察しがついたらしい。
ばつが悪くなった彼は頭をがしがしと掻いた。
確かにナマエは女性である。そういったこともあるだろう。
しかし彼女と住んで大分経つが、全然気づかなかった。

「オマエ、そンな重い方だったか?」
「うー、今回は……薬飲む、タイミングがね……遅かった」
「俺にできることねェのか?」
「……寒い」

確かに夏だというのにナマエは毛布にくるまっている。
汗を掻いているのに彼女の手は冷たい。
出血によるものだろうか。
確かこういうのは血行をよくした方が良かった筈だ。

「腹ァ温めてるか?」
「ううん、この時期カイロ売ってなくて」
「薬はまだあるな?」
「……あと2回でなくなる」
「わかった、買ってくる。メシは心配すンな。食いたいものあるか?」
「むり……痛くなるから」
「……わかった」

一方通行は台所から空いたペットボトルを探した。
お湯を沸かし、ボトルの中に注ぐ。
それをタオルに包み、ナマエに手渡す。

「とりあえずこれで温めとけ。なンか探してくる」

そう言って一方通行は部屋を出た。
鎮痛剤。あれば湯たんぽ、カイロ。
買うものを脳内で反芻しながら薬局への道を急ぐ。
重力ベクトルを操作し跳躍しながら、自分はすっかり変わってしまったと今更ながらに思う。
誰かのために、ここまで躍起になるなど。




カイロは見つからなかった。
一方通行は代わりの湯たんぽにお湯を注いだ。
腹に当てるのならば、とソフトタイプのものを購入した。

「ほら。大丈夫か?」
「ありがと……」
「買ったもンはココに置いとくからな」

薬が効いてきたのかナマエは少しだけ楽そうだった。
といっても脂汗はかいているし、痛みに喘ぐ声がなくなっただけなのだが。
風邪をひいた時の方がまだ楽そうだった気がする、と一方通行は思う。

「他に何かできることあるか?」
「あなたの手、あったかい?」
「まァ……夏だから」

手を差し出すとナマエはそれを握った。
彼女の手は冷たいままだった。
安心して息を吐くように彼女は呟く。

「あったかい……」
「こンなンでイイのか?」
「うん。それで、心配して、もらえて……私しあわせ……」

辛そうにしながらもナマエは柔らかく笑った。

「オマエが構わねェならだが、俺の力で血行良くしてやることもできると思う」
「……すごい」
「直接患部に触れる必要はあるけどな。どォすンだ?」
「じゃあお願い……しようかな。ちょっと恥ずかしいけど」

ナマエは億劫そうに寝間着を捲り上げた。
当然、白くて薄い腹が露出する。
ナマエの見慣れない姿に一方通行は目を逸らした。
仮にも思春期真っただ中である彼には少しばかり目に毒だった。
遠慮がちに柔らかい腹に触れ、ベクトル操作によって血行を促す。
しばらく待ってから一方通行は声をかけた。

「……どォだ?」
「……軽くなったみたい、ありがとう」
「最初からこォしてればよかったなァ」

腹から手を離すとナマエは捲り上げていた衣服を整えた。
片方の手は繋いだままだ。

「今日は寝とけ」
「うん、おやすみ」
「オヤスミ」

ナマエは昨晩から眠れなかったようで、痛みが取れるとすぐに眠った。
一方通行はナマエの髪に指を通してみる。
それは引っかかることなく毛先まで到達した。
今までナマエは、薬によって痛みを押さえていたようだが、それで全く痛くないとは一方通行は思えなかった。
ナマエには強がる癖があるからだ。

「痛いなら痛いって言え。……言いにくいンだろォけどよ」




end
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