水神
□ずっと
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ずっと待ってたんだ。
もう、待てない。
ずっと…
「シルヴィア」
俺はまたその名を口にする。
何度も何度も呼び続けてきた、その名を。
お前と初めて会った日のことを、まだ覚えている。
一万二千年も待ってようやく巡りあったのに、俺はお前のこと気付いてやれなかったな。
懐かしい匂いはしてたのに…。
あの日からかなりの月日が経っていた。
俺も、もし生きていたらだいぶ大人になってるはずだ。
魂だけの存在になった今は、シリウスやトーマの魂とくっついたり離れたりしながら、異次元のような世界をただふよふよと漂っている。
彼らの魂から、俺はたくさんのことを学び、吸収したんだ。
もう、お前が俺のこと、ガキ扱いできないくらいに。
だからもう一度、俺はお前に逢わないといけないんだ。
話したいことがこんなにも沢山ある。
地球と合体して知った、世界中で起きているいろんなこと。
もう一度お前を抱きしめて、お前の温もりを肌で感じながら、お前と話しがしたい。
なぁ、ボケ姫。
お前の涙の匂いを嗅ぐのは、もう嫌なんだよ…。
‐‐‐‐‐‐‐
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
その日も枕を涙で濡らすシルヴィアを訪れたのは、リーナだった。
「シルヴィア」
「リーナ?今気分悪いから後で……って!」
テレポーテーションで不法侵入してきたリーナに、シルヴィアは驚きのあまり声を上擦らせた。
「やだッ!リーナ、デリカシーないのね!ここは私のプライベートな空間なんだからぁ!」
「うふ。ごめんなさい。でも、あなただって私のプライバシーを侵害したことがあるのをお忘れ?」
「うっ……。」
言葉に詰まるシルヴィアに優しく微笑むと、リーナは「さて」とベッド横の椅子に腰掛けた。
「あなたの王子様が、あなたを捜して迷子になってるの。本来居るべき場所から遠ざかってしまっているわ。今なら、もしあなたが彼を強く呼べば、彼は戻ってこれるかもしれない」
「えっ……」とまたしても言葉に詰まったシルヴィアの頬を、大粒の涙が数滴伝った。
「良い情報を与えたから、許してくれる?うふふ。それでは、頑張ってね」
唖然としているシルヴィアを残し、リーナは静かに夜の闇に紛れて消えてしまった。