basketball

□ぼくのもの
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「君の意見には、賛成出来ません」

テツヤの目は本気だった。

「彼はずっと努力をしていました。今だって、自主練をしている筈です」

「それでも、彼は結果を出せなかった」

だから、僕は同じ目で見返す。

先日、結果の出せなかった部員に降格を告げたのだが、テツヤは頑なにその行いを認めなかった。
現に一週間経った今も、僕にむかって何度も訂正を求める。

「彼はあの日、体調が悪かったんです!熱があるって、親御さんも言っていました……!」

いつもの彼からは想像もできないくらい目の端がつり上がっていて。
僕の胸のなかに嫉妬に近い感情が渦巻いた。

彼は、僕が今までテツヤにさせたことのない表情をさせている。
そう思うと、吐き気と殺気がこみ上げる。

「熱があったかどうかも、
全て彼の責任であり、結果なんだテツヤ」

「ッ……!!」

やめてくれ、そんな顔をしないでくれ。僕は君にそんな表情をして欲しいわけではないんだ。

なあ、僕らは恋人同士じゃないのか?
一週間前から、テツヤは俺に笑わなくなった。手を繋ぐときだって、キスをするときだって。

唇から苦い味がした。
これは、血の味だ。
いつの間にか噛み潰していたらしい。

「だって、僕がそうだったから……!」

「テツヤはそのチャンスを掴み、彼は掴めなかった。それだけだ」

「でも、でもッ!!!」

「うるさい」

低い声色は鋭い刃のように直線を描き、テツヤの頬をかすめた。

ーー!
僕は、何を言っているんだ……!

言い終えたあとに、我にかえる。
しかし、気持ちとは裏腹に
口からはするすると思ってもないことが出てきてしまって。

「いつまで同じ事言わせたいの?
無理って言ってるの。
大体君は現実を甘く見過ぎだ。
僕の言うことには黙って頷け……!!」

止まらなかった。

テツヤの目は恐怖の色で染まっていた。一目瞭然だった。
激しい後悔が僕を包む。
僕はなんて愚かなんだ。

ーーしかし、それに反して何故か

興奮の様な感覚に襲われもした。

彼は今、僕しか見ていない。
僕の声しか聞いていない。
僕しか考えていない。

ぞくりと、光が身体を駆け抜けた。

「テツヤ」

「ひっ……!」

さっき僕の言葉で傷つけてしまった頬を優しく撫でると、
テツヤは小さく肩を震わせた。

「テツヤ、"はい" は?」

「嫌です……言いたく、ありません」

「言えよ」

「ッ!!」

気付けば僕の両の手はテツヤの首をおさえていた。
ああ、僕はなんて愚かなんだ。

でもほら、こうするとね
テツヤは今までに見たことのない顔で僕を見るんだ。
いつもこうやって君の喉を締めていたら、君の頭のなかはいよいよ僕しか考えられなくなってしまうよね。

もう彼への行いは取り消すことなんて出来はしないから。
きっとテツヤは僕に笑いかけることなんてなくなるだろう。
頬をあかくそめることがなくなるのなら、あおく染めてみるのも悪くない。

僕に不満が出来て
彼のように、僕以外の男のことを考えるようになるのなら、

きちんと別の方法で、
今度はテツヤの心を


僕でいっぱいにしてあげるよ
 

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