日常

□シャーペン
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「草汰君と芹君って、いつからの付き合いなの?」
 
朝、いつもより早く学校に着いた俺は 特にやることもないから。
とりあえず寝ようと思って机に伏せていた。

「中学から?」

さっきから質問を重ねてくるのは、右隣の席に座っている神木だった。
こいつは普段必要以上に話すことのない女子だから、正直驚く。
なんだって突然こんな話しかけてくるんだよ。

「高校からだよ」

「えぇ!?一年であんな、あんな感じになれるの!?」

どんな感じだ。

「いいなぁ、二人ともすごくお互いを大事にしてるよね。私もそんな友達ほしいよ」

神木はアメリカンな身ぶり手振りが混じる話し方をするから。
少しだけ気になって、腕の隙間から覗いてみた。
それに気付いていない神木はいつものおどけた口調で続ける。

「もう、そんなに毎日一緒にいたら兄弟みたいな感覚なんだよね。草汰君一人っ子だっけ?私も一人っ子だよ、兄弟がいない寂しさったらないね!少子化社会を恨むよ〜」

……関西人なのか?

見事なまでのマシンガントーク。
あつくなるとつい止まらないんだろう。
質問に答える暇もなく少子化社会が恨まれるオチになってしまった。

俺は頭を上げ、神木と目を合わせた。

「芹は兄弟とは思わない」

それ以上だ。

「それに俺は3人兄弟の真ん中だし、少子化社会を恨んだことはまだない。」

できるだけ簡潔かつ丁寧に答えてみた。
折角の睡魔が台無しになって萎えてるからってのも多少はある。

「丁寧に全部答えてくれちゃってありがと」

にっと笑ったから、白い歯が爽やかにのぞいて。そこで神木の肌の黒さを感じた。
こいつ短距離だったかなあ

「あーでもでも、今年クラス離れちゃったよね。寂しい?」

「おれを馬鹿にしてんのか」

「まっさかあ〜!」

まあ、同然寂しいなんて言えないし。
否定するって分かってて聞いてるのか?
だとしたらこいつはアホだな。
……言い過ぎか。

…………、

正直女子とどんな感じで喋れば良いかよくわからないから、苦手。

「そーたー!」

「あ、噂をすれば芹君だ」

「せり、」



自然と胸を撫で下ろしていた。

「わり、呼ばれてるから行く」

「ううん全然大丈夫だよ!いってらっしゃい」

椅子から腰をあげ芹のもとへと歩く。
はよせいと芹が急かすから、小走りにした。

「なに」

「あいたかった」

「ばか」

「ほら、昨日家にシャーペン置いてっただろ」

あ ホントだ、

芹の右手のひらで転がった青色のそれに今更驚く。全く気付かなかった。
自分の注意力のなさに少しだけ危機感を抱く。

「つか、珍しいな 草汰が女子と話すなんて」

受け取ったシャーペンをポケットにしまう。あ、丁度入った。

「ん、まあな。あいつは中学一緒だったから、割と話しかけやすかったんじゃね」

俺は全然そうは思わんけどな。

「なに話してたの」

「……妬いてんの?」

「、悪い?」


やば、超くる。この芹のドストレートなとこ、すきだ。
嬉しくて顔が赤らむ。
周りにバレちゃ不味いのに、なにやってんだ俺の顔…!
腕で顔を少し隠す。

「お前とのこと、仲すげえ良いけど幼馴染みなのかとかなんとか聞いてきたんだよ」

「なんて、答えたの?」

「高校からの気の置けない良いお友達です」

仰々しく、身ぶり手振りをつけてみた。なんとなく。

「まあ、模範解答だな。あーあ、お前さえよけりゃあいつの前でキスしてやるのに」

「くたばれ」

芹はガチらしい。なんでと真顔で聞いてきた。だからこっちも なんでもと真顔で返す。
するととうとう芹は唇をつき出して、そっぽを向いてしまった。
ホント分かりやすいやつ。

「……キスなら、二人きりんときいくらでもすりゃいいだろ」

勿論、周りに人がいないのを確認してから言った。聞かれたらガチでやべーしな。
それからでれたとかじゃなくて ただ本心を口にしたくなっただけだ。

「っ〜!じゃあ今日の放課後な!絶対だぞ!!じゃなきゃぶち犯す」

「お前いちいち卑猥」

「そんな俺も好きなこと、知ってるから」

並びの良い歯がのぞく。芹も歯あ白いよな……。
あと、なんで知ってんだよ。


あ、鳴るじゃん!やべやべー
彼はそう言って疾風のごとく去っていった。
現在は嵐のあとの静けさに包まれている。


はやく放課後になんないかな、
なんて無意識に考えちゃって。

席についたとき、
神木が短く「おかえり」と笑った。
 
 
 
 

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