□自転車
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「ね、寝坊しちゃった!!」
 
顔面蒼白のまま飛び起き登校の支度をする、ある春の日。
 
 
私は偶然の出会いをする。

 
「柊、朝御飯は?」
 
「いらない!てか食べる時間ないし!じゃ、いってきます!」
 
「お腹すくわよー」
 
「早弁するからいい!」
 
 
母の声を背に聞きながら玄関を飛び出しチャリを出す、
 
「急がなきゃ」
 
そして愛車に跨がり深呼吸。

 
「……よし!」
 
 
 
 
飛ばしに飛ばすこと数十分。

やっと中間地点、
 
「このまま行けたら間に合うぞ!」
 
心に余裕ができた、その時。


 
ぶすっ
 


後方で大きな音がしたかと思うと、
 
 
「わ、え!?ま、まっ」

 
 
 
がっしゃあああああん

 
 
 
急にハンドルがきかなくなり、柊は草の茂みへ転げ落ちた。
 
 
 
 
「ったあ……」
 
全身を強く打ってしまい、体を動かす気にもなれなかった。

隣で空に向かってタイヤをカラカラとまわしている自転車は、パンクしてしまったママチャリ。
 
「凄い酷いパンクじゃん〜」
 
涙目で穴が開いた黒いゴムに触れる。
 
 
学校、休みたい。

 
突然の事故、虚無感、痛み。
運が悪いにもほどがある。

なんか脇に生えてるこの花臭いし。

 
すると、
 
 
「おーい!大丈夫かー?」
 
 
天から声が降ってきた。

「何……?」

「今助けっかんなー!」
 
何か赤いものがチラと見えたと思ったら、こっちに凄い勢いで近づいてくる。

 
 
ずざざざざざ
 
 

「やっ、え、え!?」
 
何が来るの!?と混乱していたら、
 
「スケット団ス!」
 
 
同い年くらいの男の子が、手を差し伸べてくれた。
 
 
「あ……ありがとう!」
 
信じられない展開に戸惑いつつも手をとる。

 
しかし、
 
「痛ッ!」
 
「おい、大丈夫か!?」
 
足を捻ってしまったらしく、立つことができなかった。

「捻挫か……、チャリも大破してんな……」
 
男の子も困り顔。
 
「遅刻しそうだったから急いでて……もう最悪……」
 
「な、泣くなよ、うーん、あ。ほら、」
 
すると彼はしゃがんだかと思うと私に背を向け、
 
「おぶるから、乗って」
 
まっすぐな笑みを私に向けた。

 
 
「よ、いしょっと!」
 
「重くない?」
 
「全然!チャリは後でどうにかするとして、とりあえず病院行くか。」
 
「そんな悪いよ!学校遅刻しちゃう!」

「気にすんな!困ってる人助けんのが最優先だ!」
 
にっと笑う男の子の優しさに、また柊は涙が出そうになってしまった。
 
「……ありがとう、」
 
「おう、んーどうすっかなあ。この時間はまだ病院開いてねーし……
 
そうだ!椿!」
 
「椿?」
 
「しっかり掴まってろよ!」
 
「わっ!」
 
柊が返事をする前に、赤い帽子の男の子は走り出した。




「つーばきー!」
 
邸宅から出てきた賢そうな男の子が椿、というらしい。
 
男の子は椿を呼び止めると
 
「なんだ藤崎、ん?その女生徒は?」
 
「こいつ捻挫しちまって、手当てできねーか?頼む。」
 
彼に頭を下げた。
 
「! ……キミが頭を下げるとは珍しい。いいぞ、父は今出張しているが捻挫はボクでも手当てくらいならできる。」
 
「サンキューな椿!」
 
「き、キミの為ではないからな!」
 
つんとそっぽを向いてしまった椿を嬉しそうなで見る藤崎。

どういう関係なんだろうと不思議に思っていると、リビングへと案内された。
 
 
  
 
「そこのソファーにおろしてくれ」
 
「へいへい」
 
柊は高級ふかふかソファーに下ろされる。
 
「わあ、ふかふか……!」
 
「けっ これだからボンボンの家は気に食わねえんだ」
 
「黙れ。」
 
椿は藤崎を一瞥すると柊に目を向け、
 
「どこを捻った?」
 
 
柊の手当てを始めた。

 
 
 
 
「うわ、すげー手つき鮮やか!」
 
「ホント、凄い……!」
 
感動するくらいの手際のよさに、藤崎も柊も目を奪われていた。
 
 
「……終わりだ。キツくないか?」
 
「うん、大丈夫。ありがとう、」
 
藤崎に支えられ、家を出る。

 
「じゃー俺はこの子送ってくっから!」

「先生にはボクから言っておく」
 
「よろしく頼むぜ」
 
「ま、スケット団としてはまあまあの行いなのではないか?」
 
「にししっ!あったりまえだっての!じゃな!」
 
 
椿にそう言ってもらえた事がよほど嬉しかったのか、
柊をおぶっているにも関わらず、スキップをし始めた。
 
 
 
 
「これからお前ん家行くから、案内してくれ」

「そこまでしてもらっていいの?」
 
「だって どーせ一人じゃ歩けないだろ?」

「あ……」
 
それもそうだ、
 
 

ということで、柊は藤崎に送ってもらうこととなった。

 
 
「藤崎君の制服、確か開盟だよね?二年生?」
 
「よく分かったな〜、その通りだ。お前は……あ、超有名公立の制服じゃねーか!」 
 
「有名ってほどじゃないよ、」
 
「いやすげーよお前!名前、なんてんだ?」
 
「橘柊、」
 
「橘か、見た目的にタメだよな?
俺は藤崎佑介、スケット団つーお助け団のリーダーやってんだぜ!」
 
「あ、さっきスケット団って言ってたよね、……へえ!お助け団かあ……」
 
「そ、落とし物探しからカツアゲ撃退までなんでもやるぜ」
 
「何人でやってるの?」
 
「3人。頼もしい奴ばっかだぜ」
 
「そうなんだ、」
 
「今度遊びにこいよ!」


……
 
 
玄関前、

「今日はありがとう、藤崎君」
 
「礼には及ばねえよ、俺もすげー楽しかった!」

 
藤崎は満面の笑みを柊に向けると、手をひらひらと振りながら去っていった。
 
 
 
 
 
―――……藤崎佑介……かあ、
 
開盟に進学しても良かったかな?
 
 
 
なんて思ったり思わなかったり。

  
 

茂みに落ちたときは厄日かと思ったけど、今思えば全部。
 
 
藤崎君との、偶然の出会いの過程だったんだなあ…って、
 
 
そう思ったら、なんか嬉しくなってきた。 
 
 
 
 
 
今度遊びに行っちゃおうっと。

 
 

 
 

 
 
ゼラニウム―偶然の出会い―
 

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