□王子様
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「まったく……会長も少しは仕事をしてください……」
 
分厚い紙の束を抱え、生徒会室で昼寝をしている会長こと安形惣司郎を思い浮かべながら嘆息。
そして歩を進める椿。
 
 
今日も副会長は多忙を極めていた。

 
「えーと……校長室……と、」
 
今現在の仕事は高さ30pあろうこの紙束を校長に提出するというもの、
あとはあの角を曲がるだけか。
 
と気を抜いた刹那、

 
「うおっ!?」  

椿は足を滑らせ、派手に転んでしまった。 
 
「何故廊下が濡れている!!濡らしてしまったら拭くのが常識というものだろう!!!」 
 
濡れた廊下に向かって叱っていると、
 
 
「だ……大丈夫ですか?」
 
女子生徒の心配そうな声が聞こえた。
 
小さい背丈と遠慮がちな態度から一年生だろうと椿は推測した。 
 
 
「大丈夫だ、問題無い。」
 
「でも、紙が大変な事になってます」
 
女子生徒の視線の先、先程転んだときに落としてしまった紙が廊下に散乱していた。
 
「……僕の不注意だ、気にするな」
  
椿はそう言ったが、
  
「私も拾います、手伝わせてくださいっ」
 
女子生徒は引き下がることなく椿が落としてしまった紙を拾い集めた。
 
「……すまない。」
 
遂に椿も遠慮することを諦め、紙を拾い集めた。 
 
 
 
その最中。 

ふと、右手首に見えた亜麻色、
 
「亜麻のブレスレットか?珍しいな」
 
椿は自然と口を開いた。
 
「ああ、これですか?」
 
女子生徒はさぞ大切そうな目で亜麻のブレスレットを見つめる。
 
「海外へ行ってしまった兄から貰ったモノなんです。」
 
「……ほう、」

女子生徒の兄は二十歳過ぎで、海外の企業に就職しているらしく、
なかなか会うことができない為、兄が出発をするとき彼女にプレゼントしたのだという。

 
「いい兄に恵まれたのだな」
 
ウチとは大違いだ。
 
「副会長もいらっしゃるんですか?お兄さん、」
 
「兄と呼ぶに相応しくない奴だがな、」
 
「ふふ、そうなんですか?
でもこの世でたった1人の兄弟です。大切にしてください」
 
「……」
 
恥ずかしくも言い返す言葉が見つからなかった椿は、つい顔を背けた。
 
 
「では、ボクはもう行く。拾ってくれてありがとう。感謝する」 
  
「そんな、こちらこそ拾わせて頂いて。ありがとうございますっ」 

女子生徒は控え目にぺこりと頭を下げる。
  
「……あまり謙遜しないほうがいいぞ、自分に自信を持て」
 
椿は去り際に、一言そう告げた。 
 
 
 
 
その数日後の事、 
 
 
  
「最近開盟の社長令嬢を狙ったカツアゲが多発しているらしい、」 
  
久しぶりに安形が生徒会室で真面目な話をし始めた。 
 
「最低な奴だな、男か?」
 
「ああ、暴力、言葉で脅し、金を巻き上げているそうだ。」
 
「今直ぐ締め上げに行きたいですね」
 
「……確かもう既に数人被害にあってるんだよな、」
 
「そ。今週の頭から始まって、現時点では4人かな」
 
「もうそんなに被害が出ているんですか!?」 
 
流石に焦りの色が隠せなくなってきた椿を、榛葉が宥める。
 
「大丈夫だ、次目をつけられている子は分かってるから。」 
 
「ああ、1年の出席番号の若い女子からやっているからな、次はこの――」 
 
 
 
「橘柊って奴か」

 
「控えめで気弱な顔してんな、恐喝されたら一発で終わりだろう」 
 
榛葉が手に持っている資料写真には、 
   
 
「この人――!」 
  
「何だ、知り合いか?」 

亜麻のブレスレットの女子生徒の顔が写っていた。
 
 
  
 
同時刻、 
 
 
-スケット団部室-
  
 

 
「最近、常に視線を感じるんです」
 
「なんや怖いなあ、ストーカーか?」 
 
「わからないんですけど とにかく怖くて……」 
  
『橘柊、開盟学園1年
橘財閥で有名な橘家の長女で帰宅部だ。』
 
 
「社長令嬢さんなん?」
 
「はい、父が会社の社長をしています」 
 
「どーりで気品があるはずだ、ヒメコとは別世界の住人だな」 
  
「うっさい黙れやハゲ!」 
 
 
『ところで、最近その社長令嬢を標的としたカツアゲが多発しているらしい。』 
 
 
「そ、それやそれ!!絶対アンタ狙われとるって!」
 
「黒幕は誰か分かってるのか?」
 
『いや、目撃情報が無い上被害にあった女子生徒は皆ショックで口を開くことができない状態らしい』 
 
「……つまり誰の犯行かわからへんっちゅーことやな……」 
 
ヒメコは今にも激高しそうな程の鬼の形相をしていた。 
 
「落ち着けヒメコ、」
 
「せやけどボッスン!!」 

「……じゃあ、俺等がボディーガードをするとか……」 
 
『それだと犯人は別のターゲットを決めて次の犯行をするだろう、』 
  
「くっそ、どうすりゃいいんだ……!!」
 
「じゃあ、橘さんの少し後ろで見張っとくいうのは?」 
 
『バレたら元も子もないが…、ボディーガードよりは良いんじゃないか?
リスクはその分高くなるが。』 
  
「けど他に手が無いならしゃあないやんな、よし!もう大丈夫やで!!アタシらが守ってやる!!!」 
 
「あ、ありがとうございますっ」 
 
「ぜってー捕まえてやっぞー!!!」 
 
『「「おー!!!!」」』 

 
 
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