□一目惚れ
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私は何の特徴もない平々凡々な高校3年生、顔立ちも、学力も、身体能力だって、いつも真ん中。普通で平均的。

特技も趣味もない地味な私が大嫌いで仕方がない。

「はあ、もう3年かあ〜」
 
朝から今まででもう何回ため息をついたのだろうか、

柊は新しくなったクラスの中1人、席に座り外を眺めていた。

 
 
と、
 
「会長、いらっしゃいますか」
 
聞いたこともない声。
凛々しくて、真っ直ぐな声が聞こえた。

 
扉のほうに目線を写すと、


 
――とくん


刹那、今までに経験したことの無い想いが溢れた。


 
これはきっと、
世に言う「一目惚れ」そのもの。

 
 
「おう椿、どうした?」
 
教室内で談笑していた安形君が椿君という子の方へ歩いていく。


 
椿君って言うんだ……、
 
そういえば生徒会関係で聞いたことがある気がするなあ。

 
 
「あ、見て見て!椿君だ!」
 
「カッコいい〜!可愛い〜!」
 
「頭いいし、運動も出来るし!」
 
「いいよねえ、彼氏になってほしいわあ」

 
ねー!!

 
後ろのほうから、そんな話し声が聞こえた。
 
文武両道、眉目秀麗。
まあ、当然の反応だよね、

 



――ちょっと悲しくなってしまう、
 
 
あんな凄い人に一目惚れしたって、失恋するに決まってるのに……


変われないのかな、素敵な人に。

……なんてことも浮かんだけど、どう行動すればわかんないし。

また悲しくなってきた。



「……ん、あの方。体調が悪いのではないですか?」
 
「んお?あ、橘のことか?あの、黄昏てる奴」
 
「はい、保健室へ行かせることを勧めます。」
 
「椿の言うことだからなあ……、ちょっくら声かけてくるわ。一旦その話についてはストップな」

  
 
 
「橘」
 
「……え、私!?」
 
「お前お前。なんか椿が体調悪いんじゃないかって心配してっからよお、大丈夫か?」 
 
「椿君が……?」
 
 
どき、
 
 
鼓動がどんどん加速していく。
 
 
「あ、熱い……」
 
「うお、やっぱ熱か。保健室いくぞ」
 
「え?」

 
 
これ、ただの熱なのかなあ?
 
 
多分そうじゃないと思うんだけど……、
 
頭上に疑問符を三つほど浮かべる柊だったが、安形の力は強く、腕をひかれるまま教室を出た。


 
 
「あ……、」

どき。
 
 
柊のすぐ目の前には、絶賛一目惚れ中の椿の姿。 
 
 
椿……君だ……
 
 
やっぱり、胸がどきどきする。

 
「橘、ちょい熱っぽいってよ」
 
「やっぱり、さあ 歩けますか?保健室へ行きましょう。」 
 
「え、あ……うん」

椿に支えられながら、柊は歩を進めた。
 
 
近い……、ヤバイ格好いい、

 
なんて、柄にもなく年下の男の子を見つめちゃって。
 
 
でもやっぱり恥ずかしくなって、ふいと顔を背けた。

 
 
「……おー、成程?」

 
 
……
 
 
 
ガラッ

 
「先生、体調不良者です。」

 
 
熱を測ったら、やはり微熱があった。
 
 
――おかしいな、やっぱりただの熱かな??
 
 
ちょっと複雑な気持ちになったが、気を取り直して椿の方へと向き直り 
 
 
「ありがとう椿君」

ぺこりと一礼、

「いえ 体調管理には十分気を付けてくださいね」
 
そして椿はそれにボクは当然の事をしたまでです、とほんの少しだけ顔を赤らめた。 
 
「うん、」
 
 
今度は可愛いなあ、って思っちゃったり。
 
 

椿は柊がベッドに横になったのを見届けると、すたすたと保健室を去っていった。
 
 
――さて、少し休むか。
 
 
瞼を閉じようとした柊だったが、
 
 
「橘」

「安形君……?」

カーテンの隙間からひょいと安形が顔を覗かせた。
 
 
「椿はすげえ人気だからな、取りに行くなら積極的に行かねーと、他の奴に取られちまうぞー?」

安形の顔は楽しそうにニヤけてる。

「わっ、分かってるよ!」
 
安形君にバレてる!?!? 
 
猛烈に照れた柊は、がばっと布団の中へと潜り込んだ。
 
 
「お前は顔きれいなんだから、きっと大丈夫だ!」

「御世辞なんか通用しないよっ」
 
 
「かっかっか!そんな考え方してると、人生楽しめないぞ!」

 
安形も保健室を去り、一気に辺りは静かになった。
 
 
シンと静まり返る中、柊は天井を見つめた。
 
 
―私が、頑張らなきゃ。私が変わって 椿君に振り向いてもらえるように努力しなきゃいけないんだよね―――……、 
 
 
その目には、確かな決意が灯っていた。
 
  
……
 
 

―――新学期が始まり、私は変わった。
 
椿君の隣に居ても恥ずかしくないように、日々勉強をして、運動もして、少しでも自分に自信がもてるように努力をした。

 
そのお陰か、学力も運動能力も驚くほど伸び、数ヵ月前とは比べ物にならないほど自信をもてるようになった。
 
 
「よう、橘」
 
「安形君、」
 
 
昼、お弁当を食べている柊をまじまじと見つめてから、安形は口を開いた。 
 
 
「最近のお前、すげーいい顔してるぞ。椿なんかイチコロだな!」

褒めまくられ、赤面。

「……うん、頑張る」

 
「セッティングなら俺に任せろ!
なんならもう、今日の帰りで良いか?」 
 
「ええ!!?」 
 
「善は急げだ!じゃあ今日の放課後、池の前に来いよな、」
 
 
たかたかと足早に去る安形を引きとめることはできず、ただ一人うろたえていた。
 
「……そんな……、」 
  
 
焦りや不安が一気に心に広がる。
 
しかし
 
 
―――でも、私から一歩を踏み出さなきゃ。
 
 
それらを吹き飛ばすくらいの決意を心に宿した柊は、もう何も怖く無かった。
 
 
柊はお茶を一気飲み干すと、がんばるぞー!と拳を固め、意気込む。 
 
 
 
  
私を変えた、大切な大切な初恋。

どうか、ハッピーエンドになりますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
クサボケ―平凡 一目惚れ―
 

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