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□カレハ
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季節は秋、木々が朱に染まる頃。
 
 
 
 
「落ち葉狩り狩り男?」
 
 
生徒会に事件解決の依頼が来た。
 
 
「……普通に落ち葉狩り男じゃ駄目なんですか会長、
ていうか落ち葉狩りは何も悪いことではないように思いますが」
 
「かっかっか 落ち葉狩りと聞く分にはそうだがな」
 
安形の笑う隣で、榛葉は事件の内容を説明し始める。
 
「なんでもマジもんの落ち葉“狩り”をする奴らしくてな、今は丁度落葉する季節だろ?
だが今年はその落ち葉狩り男のせいで」
 
落ち葉が全て、跡形もなく消えてしまうんだ。
 
「掃除の手間は省けるが風情も季節感も何もありゃしない。と、近所の方々から苦情が殺到している」
 
「そういえば落ち葉、今年はまだ一度も目にしていませんね」
 
季節は秋、もう落葉を見かけてもおかしくない季節であり、むしろ見かけなくてはおかしい季節だ。 
 
「おかしな奴がいるもんだな、そこらじゅうの落ち葉枯れ葉をかっさらってどうするってんだ」
 
「そして苦情がウチへ来ると言う事は」
 
「ああそうだ。ウチの学校の生徒がやらかしてるらしい」
 
「はあ、本当に開盟学園には変態が多いよなー」 
 
榛葉は呆れ顔。   
 
「ウチの生徒だっていう証拠は何かあるんですか?」
 
「目撃情報が何件かあるぞ。毎日早朝に開盟の男子制服を着て近所を徘徊してるらしい、でっけえビニル袋を持ってな」
 
「じゃあすぐに捕まるはずですが」
 
「そう思うだろ?でもな。なんかソイツ、むちゃくちゃ足はえーんだってよ」 
 
楽しそうに目を細める安形、
 
「捕まえようと試みる人は多かったらしいが、全員撒かれたらしい」
 
「そこまでして落ち葉を狩りたいんですか……、理解できませんね」 
 
「まあそういうことでで、今回我々生徒会に依頼として来たってわけだ」 
 
「ボクに任せてください、足の速さには自信があります」 
 
頼もしそうに頷いた安形は口を開き
 
「そうは言っても流石に一人に任せるのは心配だから、榛葉。椿のサポート宜しく」
 
置物会長炸裂の発言。
 
「俺!?たまには安形やれよ、お前のほうが足速いじゃん」
 
「会長、私も行きましょうか」
 
「デージーは女だから。もしもの事があったら危険だろ?男に任せろ」
 
「男っていうか椿と俺ね」
 
「……ま。面白そうだから俺も参加するよ」
 
いきなり小笠原気団が東京へ猛突進してくるのではないかというくらいのありえない展開に、 
 
「おお、それは頼もしいです会長!」
 
椿は喜びを隠せなかった。
 
「椿ちゃんのこんな嬉しそうな顔久しぶりに見たぜ……」 
  
「よし、じゃあ決まりな!!決行は明日の早朝だ!」 
 
「はい、なんとしてでも捕まえてやりましょう!!」 
 

 
 
翌日早朝
 
 
 
 
「くあー ゴミ出しとかマジめんどくせえー」
 
重いまぶたを擦りながらボッスンは両手にゴミを抱えジャージで歩いていた。 
 
「……んお?」
 
がさがさがさ
 
 
――――あいつ、開盟か?
 
ボッスンの視線の先、開盟の制服を着た男が何かを拾い集めていた。
 
男の手には、大量の落ち葉、枯れ葉。
 
 
「朝から掃除してんのか、大した野郎だぜ」 
 
ボッスンは一人感心していると、
 
 
「貴様だな!落ち葉狩り狩り男!!」 
 
「椿!?」 
 
掃除をしている男めがけて、椿が猛ダッシュ。 
 
 
「くそ!生徒会か!!」
 
すると男は作業を中断、枯れ葉でパンパンになった袋を抱えているとは思えないほどの速さで走り出した。
 
「うわ、あいつ超足はえーじゃん!!!」 
 
 
男は必死に十字路の1つへ走っていくが、 
 
「こっから先は行かせないよ」 
 
仁王立ちの榛葉が道を塞ぎ。
 
「くそ!」
 
もう1つへと走る。しかし、
 
「大人しく捕まってくれや、あんま手荒なマネはしたくねえんだ」 
 
そこには安形。 
 
 
3つの道を塞がれ、ついに男は最後残った道へと走り出す。 
 
「やっぱりか!!」 
 
生徒会3人も一気に男めがけて走り出す。 
 
「! 藤崎がなぜ此処に!?」 
 
「えッ、なになに こいつ捕まえたほうがいいの??」 
 
「藤崎捕まえてくれ!!」 
  
「おっ、え、おうわ……くそッ!」
 
 
フジサキバレンシア――――!!!
 
 
 
どさっ 
 
 
 
「よくやった藤崎!」
 
「え、え??」 
 
 

 
 
「……は?」 
 
「だから道路に、落ち葉が、枯れ葉があったらいけないんだ!!」 
 
「何がどういけないのか説明してくれ」 
 
道路の真ん中、生徒会とボッスンによって捕まった男は、訳の分からないことを言い出した。
 
 
落ち葉狩り狩り男の正体は文芸部員の2年だった。
 
中学のときは陸上部短距離所属で、大会では常に1位を独占していたらしいが、
 
ある日、ある小説と出合い、本の世界にのめりこんでいったという。
  
「その俺の原点ともなった本のヒロインの女の子がな、病弱でな。
 
“枯れ葉であの道がオレンジ色になったら、私の命も枯れて、土に還るんだわ……”
 
という台詞があるんだ」 
 
「うわ重ッ!!」
 
偶然この事件に関わることとなったボッスンも苦い顔。
 
「そして、その女は結局どうなったんだ?」 
 
「……辛過ぎて……読んでないんだ……」
 
「はあ!?」 
 
「おいおいそこは読めよ!!最後まで見届けろよ!」 
 
「読めるわけないだろ!?もしあの女の子が死んじまったらと思うと鬱になる!最悪俺も衝動で死ぬかもしれん!!」 
 
「……何故作り物の女をそこまで思うことが出来るんだ……」 
 
椿は本当に理解できんと言わんばかりの表情。
 
「とりあえず、だな。
理由がどうであれ近所の人達にすげー迷惑がかかってんだ。
今後一切こんなことはすんなよ」
 
「でも、枯れ葉を集めねえとあの子が死んじまう気がして…!」
 
「その小説…最後まで読んでみろよ」
 
「え?」 
 
「大丈夫だ。読め、
そんなに大切な子なら尚更最後まで見届けてやるべきだろ。
きっとその子は死なねえ。お前も心の奥底ではそう思ってんだろ?」
 
「……、」 
 
男は静かに頷いた。
 
 
……
 
 
「この事件はスケット団の手柄ってことになるんだよなあ?なあ?」
 
「にやにやするな気色悪い。
……まあ、事件解決、男の説得に大きく貢献したからな。」 
 
「っしゃ!!ようやったボッスン!」
 
『新聞記事の一面はスケット団で決まりだな』 
 
部室の中には歓喜の声が沸きあがった。
 
 
「そうだ藤崎、結局あの男は小説を読んだのか?」 
 
「ああ、あの女の子な。最後手術が成功して無事ハッピーエンドになったんだと」 
 
「あのときはキミが女は絶対に死なないなんて言ったから、一瞬もしもの事態を想像して焦ったが……」 
  
「ちゃんと自信はあったんだぜ?前にそんなような本俺読んだ記憶あったしなー」
 
「なんやボッスン読書とかするやつだったん?」 
  
「まあ多少はな、……でもこれで例年通り落ち葉が見れると思うと、安心するぜ」
 
「……そうだな、」 
 
 
校舎の外、朱に染まった道が秋の訪れを知らせていた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
枯れ葉―メンコリ− ロマンチック―
 

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