□やめて
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音もない朝
 
 

僕は目が覚める

 
 
 


ベッドに散乱した白い薬をぞんざいに数粒拾い上げ、喉に押し込んだ。

「今日は……」

そうだ、ソフィアと会う約束をしているんだった。




「でてくるなよ、俺」
 
 
自分に言い聞かせるように、小さい声で言う。


午後3時ぴったり
待ち合わせのカフェに入ると、すでに彼女の姿があった。

「ソフィア」

「あ フリッピー」

頬を赤らめ嬉しそうにはにかむ。

「待たせてごめん」

申し訳ない気持ちとは裏腹に、そんな表情がすごく嬉しくて。
僕もはにかんでしまった。

「時間ぴったりに来たんだから、謝る必要ないよ〜」

彼女が頼んだであろうコーヒーは、すでに飲み干されていた。

いつからここにいたんだろう、
口に出せないまま椅子に腰掛ける。

「なんか頼む?」

「うん、カフェオレにしようかな」

「ふふ」

急に笑いだしたソフィア、

「ど、どうして笑ってるの?」

嬉しいけど、ちょっと複雑な気持ちになった。

「ううん フリッピーらしいなって」

「え」

やっぱり、嬉しい。
彼女は 僕 をみてくれてる。

「私はケーキセット頼んじゃお」

すみませーんと、片手を挙げるソフィアがたまらなく愛しい。
暖かくて幸せな午後3時。




「そういえば、最近うまくやれてる?」

ケーキをさふと切りつつ、彼女は落ち着いた声で聞いてきた。

「え、ん……。」

言葉につまる。
右手は無意識にカップの取っ手をいじっていた。

「うまく……は、いってないな」

途切れ途切れに紡いだ言葉は、僕の本心。

「みんなを傷つける彼は好ましくないけど。でも、彼は僕を守ってくれてるんだと思うから」

相反する気持ちが、せめぎあって、絡み付く。

「私もちゃんと話したことはないから彼のことは知らないけど、きっと彼もいい人なんだよね」

彼と話した僅かな記憶をたどっているのかな、

彼女は窓の向こうの景色をみながら髪を耳にかけた。
 
 
 
「だって、彼もフリッピーだから」

 
 
どくん と心臓が大きく脈打つ。

「っ……」

出てきちゃだめ……!
いつも感じる恐怖とは別の、初めての恐怖。

「?どうしたの?」

「な、んでもない」

心臓をきつく押さえる。




君は、彼女までも僕から奪う気なの……?

そんなの、許さない。

僕から、だいすきな時間をとらないで



「そっか」

さらりと髪が揺れる。

彼女は、ぼくだけの、




僕だけの、すきなひとだから。


 
 
 
 
 
 
 

French marigold―嫉妬―

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