□ゆめ
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夢を見たんだ

 
 
 
キミが陶器みたいに

 
 
 
白くて

 
 
 
冷たくて

 
 

かたくなる夢を

 
 
 
 
 
 
 
 



「―……懐中時計?」

「うん!この前お店ですっごく可愛いの見つけちゃって」

図書館からの帰り道、
僕とソフィアは木漏れ日が煌めく小道を歩いていた。

「今から行く?その店」

「えっ、でも いいの?」

「うん 僕もみてみたいし」

あかく火照るソフィアの頬を見て、安心する。

今、僕の好きな人は"生きている"

「じゃあ行こっか!」

太陽のように明るく、それでいて柔らかい笑顔の君。

手をつなげば、心地の良いぬくもり。



どうか 消えないで






彼女に導かれすこし歩くと、アンティークな可愛らしい店にたどり着いた。

「ここ?」

ソフィアは笑顔で頷く。
そしてそのまま手を引かれ店の中へ入っていった。

店内にはテディベアやブラウンで統一されたアクセサリー、家具が並んでいた。

すこし奥まで行って、彼女は細い指で1つの懐中時計を指差す。

「これ、かわいいよね」

薔薇の彫刻が施された、美しい懐中時計だった。

「すごい……」

思わず見とれてしまう。

「私買っちゃおうかなっ
スニフ、レジ行こうよ!」

シャラ、と音をたて時計は彼女の小さなてのなかに収まった。

そしてレジへ向かおうとまた僕のてを引いた、刹那



がっしゃあああんっ



「!?」

大きなガラスが割れたような音がした

「ああ、やっちゃった……」

カドルスが視界の左端で顔を青ざめさせている、

「カドルスはドジだなあ、助けに行ってあげ……」

ソフィアの身体が硬直したように固まる。出しかけた足も、そのまま。

「?どうしたの」

彼女の視線の先を追う。


毒毒しい緑を身に纏う、狂気に満ち溢れたそれはにやりと口を歪ませた。

「っ、……!!」

吐き気を必死に押さえ、僕は走った。彼女のてを引いて。

後方からぐしゃりと生々しい音がした。

振り向いちゃいけない、逃げないと……!!

鳥肌と寒気が身体を襲い、脂汗が首筋を伝う。僕の本能は、殺気と狂気を確かに感じていた。

ぱぁんっ

後ろから飛んできた銃弾が、道行く通行人につきつぎと当たってゆく。

血に染まってゆく床を、無我夢中でかける。



死んじゃだめ、死んじゃ……!!




……




「はぁ はぁ はぁ……っ」

足の向かうままに森へと走り込み、ゆっくり呼吸を整える。

「も……っ、追ってこない……はず……」


繋がれていた手を離す、と

するり


「え?」

力無くその指は僕の手をすりぬけ、何かが倒れた音がした。

「ソフィア……!?」

彼女はなんの抵抗もなく土に髪を投げ出すように倒れていた。

血生臭い匂いに誘われるように彼女を見ると、左腹部から赤黒い血が流れていた。

「あたっちゃった」

へらと緩まった口は、あかく染まっていた。

「ソフィア!!」

かがみこみ、ソフィアの手を握る。柔らかい、温かい手、

全身が心臓になったみたいに、ドク、と揺れる。

「ごめん……ね」

微かに握り返した手は、彼女が目を閉じると同時に、またするりと僕の掌から零れ落ちた。


「……ソフィア?」

返事がない、笑わない、目が開かない

「嫌だよ?そんな、まさか」

身体が凍りつく、
唯一動かせた口からは

「あ……」




っあぁああああぁぁぁッッ




彼女への想いだけが強く飛び出した。


「いやだ、なんで」

こんなに冷たいの?かたいの?

桜のように可愛らしい桃色の頬は、剥製のように真っ白になっている。

「ゆめ、じゃなかったの……?」

「すぐ夢にしてやるよ」

上から降ってきた声に顔をあげる、




みどりいろのそれはぐにゃりとくちをゆがませた。


「goodnight」





ぷつん











 
 
 
 
 
 
 

 
「――――、」
 
 

目が覚める。
 
 

「ゆめ、か」
 
 
 
 
 

今日はとても気分の悪い夢を見たんだ。
 
 
 
 


キミが陶器みたいに
 
 
 
 
 
白くて
 
 

 

冷たくて
 
 
 
 

かたくなる夢






 
 
 
 
 
 
 
bottle gourd―悪夢―
 


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