□ファミレス
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俺達に盗めないものはない。
 
何であろうと、捕らえてやるよ。
 
 

だって 俺らが捕らえちまったから。


黙ってるわけにはいかないだろ?
 
 
 
 


「コーヒー二つ」

「コーヒー二つですね、かしこまりました。すぐにお持ち致します」

子首をかしげ微笑んだとき、ふわりと髪がゆれた。彼女はすこし年下のバイトウエイトレス。

その少女が厨房へ入っていったのを横目で確認してから、リフティははあとため息をつく。

「ファミレス通いも今日で2ヶ月か」

「一途に頑張ってんね、俺ら」

見飽きたメニューに座り飽きたソファ。子連れのファミリーしかいない騒がしい店内など微塵も良い気分になるものはない。皆無だ。
彼女を除いて。

「ソフィアちゃん、ねえ。
顔は覚えてくれたみたいだけど」

「脈はナシナシ、このクソみてえなファミレスのクソみてえなコーヒーが大好きなくらいしかイメージねーんだろうな」



初めて彼女に出会ったのも、丁度2ヶ月前。
その日もちょろっと盗みをしてから、なんとなく身を隠してみようと可愛らしいファミレスへやってきたのだ(安直)。
 
  
 
英雄の奴くんのかなー
 
あいつのパンツと同じような店だから常連なんじゃね?ヤベみつかるわー
 
ぎゃはは
 
とかなんとか言いながら宝石を机上に並べ数十分。 

 
なんとその日は珍しくスプレンディドはやって来ず、俺達は機嫌が良かった。
 
 

「景気向上のためにコーヒーでも買ってやるか」

「そうだな、俺達ってば超優しい」

「おーい 注文したいんだけど」
 
「はい、すぐにうかがいます」

くるりとこちらを向いた少女の笑顔は、いとも簡単に彼らの胸に矢を突き立てた。
 

「っっ……!!」

「っあ……!!」

「お待たせいたしました」
 
 

「え、あ。あっと こ、コーヒー……ふたつ」

シフティはうまく動かない口を手で覆い、もう片方の手で2本の指を立てた。

「はい、かしこまりました
すぐにお持ち致します」

少女は柔和な笑みを浮かべ、厨房へと入っていった。


途端、二人はバッと赤くなった顔を合わせる。

「お、おい見たか今の!!」

「んだよお前もかよ!!」

「こんなイカれたトコにあんな女がいるなんて、世の中まだ捨てたもんじゃねーな」

「おう、こんな欲しいものができたのは久し振り」

蒼く揺れる4つの瞳が捉えるのは、一人の少女だった。





「にしても そろそろ動きたいよな」

「ったりまえだっつの!
でも生もんだし、扱いに悩むからむやみやたらに拉致ってもなあ」

「確かに」

「でも確実に手に入れてえし」

「ま、着実に落としてくか。今日は俺がやるよ、明日リフティな」

「ん」

話が決まった直後、厨房からコーヒーを持って、彼女が出てきた。

「お待たせいたしました、コーヒーでございます」

ことり、とコーヒーをテーブルに置く。

「へえ きれいな手だね」

「え?」

「いつも君のこと可愛いなって思ってて、彼氏とかいないの?」

リフティはあくまでも黙りこみ、じっと二人を見ている。

「あのっ 私はバイトの身ですので、そういう個人的なお話はご遠慮申し上げたいのですが……」

ナンパに免疫がないのか、
彼女は一気に顔が赤くなった。

「いない」

一言、リフティは口を挟んだ。

「知ってる、俺を誰だと思ってんだよ」

「策士シフティサマ、とでもいっといてやるよ」

「あ、の」

どうしたら良いのか判らずあたふたする少女の声はかすれていた。

「あー ソフィアちゃん?
これから毎日、君を落としに来るからさあ」

落とされる覚悟、しておいてね?

にこり、営業スマイル。

「!」

「俺ら、欲しいものは必ず手に入れるから。すぐ俺らで夢中にしてやるよ」

「し、失礼しますっ」

少女は目を伏せたまま真っ赤な頬を隠すように、足早にかけていった。

「今日のリフティはやけに物分かりが良いじゃないか」

「いつもみたいにしくじるわけにはいかねーからな」

含みのある笑みをつくるリフティ。

「あの様子じゃ、すぐだろうね」

「嗚呼。クソ楽しみ」


蒼い4つの瞳は、愉しげに笑っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Epimedium―あなたを捕える―

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