□とりっく
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「はっぴーはろうぃん!」

「ナッティ、こんばんは」

綺麗な三日月が空に浮かぶハロウィンの夜、私の家にマントを被り、仮面を被ったナッティが訪ねてきた。月夜に照らされきらきらと輝く、仮面のスワロフスキーに目を奪われる。パンプキン色のマントを勢いよく蝙蝠の様に広げ、彼の細い喉から飛び出してきたのはお馴染みの、あの合言葉。

「トリックオアトリート!」

「お菓子だよね、とってくるからまってて」

「うん!」

私はキッチンから、ラッピングをした作りたての生チョコレートを手に取り、急いで玄関へと戻る。

「はいどうぞ、生チョコ好き?」

「わあ、ありがとう!
ナッティチョコ大好きだよ!!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねて、幸せそうに顔を緩ませるナッティ。ここまで喜んでもらえると、こっちまで口角が上がってしまう。
がんばって作った甲斐があったなあーーー


「ごちそうさまでした!」

「え?」

「流石ソフィアだね、美味しすぎてほっぺたが落ちちゃいそうだったよ」

なにが起こったのかわけがわからず、ナッティのいってる意味もわからず、私は目を丸くした。
すると、不意に目に映ったナッティの口はしには、チョコレート。

「もしかして、もう食べちゃった?」

「もちろん!」

そんな馬鹿な

だって、さっきまでぴょんぴょん飛び跳ねてたのに、いつの間に……

「ナッティもっと食べたいなあ」

「人数分ぴったりしか作って無いから、もう今日は無いや……ごめんね」

「そっかぁ、……あれ、なんか
ソフィアから良い匂いがする」

「そう?チョコレート作ったからかな」

すんすんと鼻をならして、顔を近づけてくるナッティ。流石に照れるから、少しずつばれないように後ずさりをするけど、またすぐ顔が近づいてくる。

「なにーー」

えっ



突然私を襲った浮遊感は、直ぐに痛みに変わり、全身を駆け抜ける。ナッティの仮面がカツンと高い音を立て床を跳ねると、銀に光るスワロフスキーが一つ、二つ、宙を舞った。

ひんやりとしたタイルの冷たさが、私の背中を覆う。

「いたっ」

ナッティに押し倒された。
当のナッティはというと、すんすんと鼻を髪やら首やら胸元やらに近づけている。くすぐったさと恥ずかしさでおかしくなりそうだ。

「ナッティやめて、!」

声を絞り上げ訴えると、ナッティはぴたりと動きを止め、煌めくエメラルドグリーンの瞳をこちらへ向けた。

「みつけた」

「なにを、っ…!!?んむー!」

彼はほんの少し口はしを上げると、何のためらいもなく私の唇に自分の唇を重ねた。信じられないくらい柔らかいそれは、じんわりと優しく蕩けてしまいそうだった。ぺろりと私の唇を舐めると満足したように目を細め、再び顔を近づける。

「んっ」

私の口内にナッティの舌がはいってくる、それは器用に私の舌に絡みつき、いくら抵抗しても離れなかった。息継ぎをする度、いやらしい音を立て、身体中が燃えるような感覚に襲われる。まるでお菓子を貪るように激しくかぶりつくナッティの頬は、心なしかやんわり火照っていて。

「はあっ、ソフィア……っ、んっ
美味しい……」

吐息とナッティの色っぽい声で頭は支配され、何も考えられなくなっていた。口内の隅々までナッティの唾液に濡れて、窒息死しそうになったとき。

「っん……ちゅっ
ごちそうさま」

「はあっ、はあ……なんなの……」

「ソフィアの口の中、さっき貰ったやつより美味しいチョコがあったから、食べちゃった」

ぺろりと自分の唇を舐め、目を線にして柔和に笑む。そんなナッティを見て、私は首を傾げた。

「そんなチョコないよ、私誰からもチョコレート貰ってないし」

いくら記憶を辿っても、そんな記憶など無い。

「だーめ!ナッティにお菓子の秘密をしようなんて百年はやいんだから!」

「いやいや、私本当に、今日は皆のためのお菓子を作るのに精一杯で、チョコレートを食べる暇なんか…………あっ」

「うん?」

「ナッティにあげたチョコは味見したから、それならたべたよ」

「えーっ
でも、ソフィアのチョコのが美味しかったよ!なんでだろう」

すると、突然ぴんと思いついたようにナッティは睫毛の長い大きな目をぱちくりと瞬かせ、小さな顔をぐいと近づけた。

「ソフィアの口の中って、すごく気持ちが良かったな、その所為かな」

ちゅっと短く、深く口付けをされる。ナッティはこの行為に対して何の感情も湧かないのだろうか、いや、でも気持ちいいとか言ってるし……。


ちゅっ くちゅっ ちゅ


あれ、なんか、長くない?
リップ音はいつまでたっても止まなく、再び口内を侵され続ける。
例えるなら、初めておもちゃで遊ぶことの楽しさを知った幼い子供のように。何度も何度も、飽きずに繰り返し、行為を行う。
流石に私も何が何だかわからなくなってきて、目が潤んできたそのとき、


「ソフィア!トリックオアトリート!!」

!!!!!

この声は、ランピーだ、その後ろでわいわいと賑やかに騒いでいるのは、きっとカドルスやスニフ達に違いない。

まずい、これを見られたら恥ずかしさの余り死にかねない。どうにかしないと、

しかし、以外と私の肩を掴むナッティの力は強く、もがいてもびくともしなかった。そして遂に、


「おいソフィア?
なに扉も開けっ放しでーー」

うわあああああああなにやってんだあああ


叫び声が木霊する。

「ぎゃっランピー!なんで目隠しするんだよ!どうなってんだよ!」

「うるせー黙れ!ソフィア!はやくどうにかしろ!」

「んんん〜〜っ!!」

「何言ってるかわかんねー!!」

口を塞がれてるのにどうやって喋れというのか。ていうかカドルス達の目を塞ぐんだったら私からナッティを引き剥がして欲しいんですけど!!!!!



(何が起こってるのランピー!)

(ナッティ以外と上手いな……今度教えてもらわねーと)

(感心しないで助けてよーーーっっ)

(ソフィア……♡♡♡)





おわり

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