夢見る他力本願

□Q.キングは敬語を使ってくれるのか?
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プライド高き氷の王様は。
今日も目線は上でした。

【Q,キングは敬語を使ってくれるのか?】

氷帝学園テニス部。
ちょっと前まで普通の学校だった氷帝は、とある人の入学を期に、お金持ちの超有名校へと変わっていった。
中等部現テニス部部長、跡部景吾。
小さい頃にアメリカに住んでいたことがあるらしい。場所は忘れたけど、別荘もあるって言ってた気がする。
顔も綺麗で、泣きボクロが特徴的な、とても自分と2つしか変わらないなんて思えない彼。
あれで中学三年だって。こえー。

普通だったら、高校二年生の私と跡部は学校で会うことなんかないんだろうけど。
氷帝学園は小中高一貫性だから、校舎は違えど会おうと思えばすぐに会えちゃったりする。
なんで私がこんなこと言ってるのかというと、実を言うと・・・そんなとんでもない跡部様と付き合ってたりしちゃったり。

いや、というのも、ファンクラブの子に限らず周りに生徒が大勢居る中で、まだ小さかった王様は爆弾を投下してくれた。
初対面だった・・・はずなのに・・・。

『お前・・・良い女だな。今日からお前は、俺様のもんだ!』
『は?』

食べてた飴が口からぽろりしそうだった。危ない。
まあ、あの日があったからこうして付き合っているわけだけれども。
よくOKしたな私。

「あーん?俺様と二人で帰ってる時に、何考えてやがる?」

・・・そうでした。
何回断っても「送られろ」と言ったこの彼氏様に、高級外車に乗せられたんでした。
ああ、視線が痛い・・・なんで高級車に乗ってるのに、連行されてる犯人の気分にならなきゃいけないんだ・・・。

「おい、聞いてんのか梓」
「きっ、聞いてる!聞いてます!」

もー、嫌だ何この人!顔近いから!
なんでいちいち顔近づけるかな・・・癖?癖か!今すぐ直そう!
というか、今思った。

「跡部さん・・・敬語って知ってる?」
「・・・馬鹿にしてんのか?」
「してませんすみませんマジですみません」

ほら、今だって!
何で私の方が敬語使ってるんだ!

「普段全く敬語無しだし・・・先輩なんて一言も言われたことない!」
「言われてえの?」
「・・・ちょっと」

だって・・・ねえ?あの跡部様だよ?異名が氷の王様だよ?
王様が敬語使う時って・・・ある?

「・・・あの、跡部さん?」
「あーん?何だよ」
「先生にも、タメ?」

そう聞くとちょっと吹かれた。
跡部が吹いた!って別の意味で驚いてた私の横で、微かに笑ってる。

「んなワケねーだろ、ちゃんと榊監督にも敬語だぜ」
「あ、え、そうだっけ?」

そ、そっか。監督だもんね、大人だもんね!
一応そこらへんの常識はあるらしい。って、当たり前か。


だがしかし、やっぱり歳が近い私には敬語無しなのか跡部様。
いや、別にそこまで使ってほしいわけでもないけどさ。
そう、好奇心だよ好奇心!

「・・・おい」
「ん?」

急に呼ばれて跡部の方に顔を向けると、向こうもこっちを見ていて。
見つめあう形になってしまった。
うぐっ・・・こ、こういうの苦手なんだけどな・・・。

「いつもの俺じゃ、嫌ですか?梓先輩」
「っ」

え、あ、い、今、敬語使った・・・?使った!
でも・・・さっきまであんなに言ってほしかった敬語なのに・・・。
こ、こんなに近くで・・・しかも跡部無駄に声までイケメンだし・・・!

「どうした、敬語で話してやったぜ?」
「・・・もう、敬語は良いや・・・」
「あーん?」

ワケが分からないといった顔でこっちを見てくる跡部。
止めてそんな顔で見ないで・・・だ、だってさ!
その・・・なんていうか・・・ギャップ萌え?的な?
駄目だ自分で何言ってるのか分からない。落ち着け。

「おかしな奴だな、俺様が折角望みを叶えてやったのに」
「あの、ほんともう敬語は・・・良いや・・・。いつもの跡部様でお願いします」

前に向きなおして、恥ずかしいから俯こうかと思ったけど、酔うからやっぱ止めた。
外の景色を見ると、見慣れすぎている景色になっていた。
もうすぐ私の家だ。


もう後数十メートルってところで、また跡部に声をかけられる。
今度はいつも通りの喋り方だった。

「梓」
「なんでしょうか」
「今から俺様の家に泊まりに来い」
「・・・今それ言いますかっ!」

なんちゅう人だ、もう我が家は目の前なのに!
どうしようどうしようと一人で焦っていると、横でまた跡部に笑われた。
今日はよく笑いますね・・・こっちは泣きたい。

「ハハッ、冗談だ。さすがに俺様でもそこまで無理なことは言わねえから、安心しろ」

で、デスヨネー。良かった・・・。

「景吾ぼっちゃま、櫻木様。到着致しました」
「あ、は、はい。ありがとうございます」

運転手のおじいさんがそう言ってドアを開けてくれた。
これに慣れないから、跡部とは歩いて帰りたいんだけど・・・。
言ったところで聞いてくれるかどうか分かんないから、あえて言わない。

「送ってくれてありがとう、また明日」
「今度本当に泊まりに来い。歓迎してやるぜ?先輩」
「・・・考えておきます」

じゃあな、と満足そうに笑って帰って行った。
顔が熱くなっているのを感じて、右手を頬に添える。

「・・・やっぱり、先輩呼びは良いや。色んな意味で怖い」

そう呟いて、やっと落ち着く我が家へと帰宅した私は。
いつ予定空いてたかなとスケジュールを思い出しながら、玄関の扉を開けた。
 

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