ほん
□utilization love
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新雲学園サッカー部、雨宮太陽。
彼は一年生ながらにして、レギュラー入りをはたしたうちの一人だ。
さらに、その実力を狩部監督に買われ、キャプテンにもなっている、全くのイレギュラーだった。
なにより、太陽は滅多に部活に来ない。というか、学校にすら来れていない。
なぜなら、あまり身体が強くなく、病院に入院しているからだ。
だが、新雲には太陽を責めるものは誰一人いない。それどころか太陽は皆に好かれていた。
そんな太陽に、雛乃金輔は、他のメンバーとは違った感情を寄せていた。
それは、本来、同性には抱かないであろう感情、即ち、恋慕だった。
だが、そんな物、当然叶う事がなく、雛乃はその想いを消そうと頑張っていた。
そうして時が過ぎ行ったある日の部活の休憩中の事だった。
「なあ、太陽さ、恋人いるみたいだよ」
ふと、そんな言葉を耳にした雛乃は、知らず知らずのうちに、その話に聞き耳をたてていた。
話が一通り終わる前に、雛乃はその場から逃げるように走りさっていた。
何も考えず、走って行った先は、学校の渡り廊下だった。
そこに体育座りで座る雛乃の頬には、涙が伝っていた。
「もう好きでないと、思っていました……」
ぽつり呟いた言葉は、誰に向けた物でもなく、強いて言うならば、自分自身に自虐と皮肉を込めて呟いた物だった。
その言葉を筆頭に、ぼろぼろと止めどなく流れる涙。止める術などもはやなかった。
そんな時、ふと雛乃の体が温もりに包まれた。
誰かに、抱き締められているような、そんな感覚だった。
「誰…、ですか……?」
涙声のような声で雛乃は聞いた。俯いていたため、それが誰なのかわからなかった。
「雛乃、大丈夫…か?」
声の主は雛乃の質問に答えず、そう聞いた。
でも、雛乃はその声でその相手が誰なのかわかった。
「佐田……。大丈夫、です。放っておいてください」
雛乃はそう言って、佐田の腕から逃れようとする。だが、佐田の腕力は強かった。キーパーをしているのなら当然なのかもしれないが。
「いやだ」
「っ!……離してっ」
「いやだ。雛乃、逃げるだろ?俺は、離したくない」
佐田の言葉に雛乃は何も言わない。否、言えなかった。
離してもらったら、今すぐこの場から逃げ出すに違いない。
「雛乃……、俺はさ、お前の事が好きだよ」
「なっ…にを!!」
「お前の気持ちは、知ってるよ。……でも、好きなんだ…」
「報われない、恋なのに……、ですか?」
雛乃は、もう佐田を拒否しようとはしなかった。
「ああ。報われなくても、好きなんだ…」
「馬鹿じゃないですか?そんなの、辛いだけです」
「そう言っても、お前は突き放そうとはしない…」
「それは…」
言葉を失う雛乃。佐田はもう、腕に殆ど力を入れておらず、安易に逃げ出すことは可能だった。
「なあ雛乃、太陽のこと、忘れる為に俺を利用しないか?」
佐田は、思いがけない事を雛乃に提案した。
「佐田は、それでいいんですか…?」
「雛乃がいいなら、俺はいいよ」
そう言って佐田はニカッと笑った。
こうして雛乃と佐田の歪な関係は始まったのだった。
おわり.