小説

□短編集
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その日は、一面の雪だった。





雪景色。
一面の白。
白が際立つせいで、他の全てが黒に見える。
錯覚だ、それはわかってる。そう見せられてる。


色が消える。

音と一緒に、吸い込まれて消える。






静けさだ。

音も色も命も、凍えて沈黙する、死の静けさだ。



針の様に尖った空気が刺す肌を刺す。



寒い。



静かで静かで、静か過ぎて耳が痛い。


それでも耳を澄ます。





沈黙の中に、無数の音とたった一つの音を探して。




















「昌浩っ」



……見付けた。



「紅蓮…」


こちらを見て俺の名前を呼んだ昌浩。
茫洋とした視線が、視界に入れていても俺を見ていない。



「お前、こんな雪の夜中に何ぼーっとしている。風邪引くどころじゃ済まないぞ」


そういって、持ってきた袿で簀子に佇む昌浩を包む。


「ああほら、こんなに冷えて…」


まだ丸みの残る柔らかい頬を包んだ。


冷たい。こんなに冷えてしまって。



「何してたんだ?」


「うん…聞こうとしてた…」


俺の首に両腕を延ばし、当たり前の様に抱っこをねだる昌浩。

まるで子供だ。

俺はそれに応じて、大きな鳶色の目を真っすぐにこちらに向けたままの子供を抱き上げる。









「ねぇ紅蓮…」


「ん?」


「俺の事、好き?」


…また突然の質問だ。


「勿論だ」


「じゃあ言って」


「――好きだ」


「…足りない。もっと」


「昌浩、好きだ」



「…うーん、もうちょっと…」





「お前を愛してる」














「……愛してる…」



























【静けさのうちに揺らぐ声】




























やがて、君はその残滓を残して消えていく。

 
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