小説

□神将達の子守1
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晴明の言わんとした事を理解した一同…特に青龍は真っ先にこの件から抜けようとした。
それもそうだろう。紅蓮を毛嫌いと言うよりほとんど敵視している青龍だ。
「力を合わせて」と言う単語に過剰に拒絶反応を示して、口を開きかけたのだが。

「命令じゃ」


見計らったかの様な(実際そうだった訳だが)晴明の笑顔の一言で、喉元まで出かかった言葉は黙殺されたのだった。



≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



―――とまぁ、そんなこんなで現在に至る訳だ。

だが皆、昌浩の面倒を見慣れている紅蓮がいるのだから、なんて事はないだろうと考えていた。
自分達は昌浩の護衛にだけ専念していればいいだろうと。

その認識が甘かった。考えてみれば実際に紅蓮が一人で昌浩の面倒を見た事など無かったのである。
大体は母なり兄なり誰かしらが普段の昌浩を見守り、その目の届かない所を紅蓮が補助していたにすぎない。

やんちゃ盛りの昌浩は、目をちょっとでも離せば何をするか判らない。
目にするもの全てに興味を示し手を伸ばす。
この部屋の惨状も、昌浩が何時の間にか紛れ込んでいた毬の九十九神をみつけ、逃げるそれを捕まえようとした為にこうなった。

瓦礫の山から這い出た紅蓮は、朱雀と共に中庭に駆け付けた。その途端、ぎろりと青龍に力一杯睨まれてしまう。

「騰蛇よ。お前は自分の大事な昌浩を放って何をしていた?」

「待った、青龍」

「なんだ朱雀!」

話を遮られた青龍は、不機嫌オーラ最高潮と言った凄まじい眼力で朱雀を睨む。
朱雀はぴっ、と青龍の腰を指差し、一言。

「昌浩が登ってるぞ…」

「……ん?」

言われて見やれば、毬を返してくれない青龍に焦れた昌浩が、うんしょうんしょと青龍の体を木に見立てて本当によじ登っていた。


……ぷちっ。


青龍の、さして丈夫ではない堪忍袋の尾が切れた音が、ここまで聞こえた気がした。
無言でむんずと昌浩の首根っ子を掴むと、さながら猫の様にぶらんとぶらさげる。
そのままぱっと手を離されれば、重力に逆らえず昌浩は地に落ち尻餅をつく。
昌浩は一瞬きょとんとした顔で青龍を見上げた。
青龍は、微動だにせず昌浩を睨み付ける。その視線がかち合うと、昌浩の顔がみるみるくしゃりと歪んでいく。

「ふぇぇ〜…」

「昌浩」

「れーん…」

前に膝を付いて手を伸ばす紅蓮に、昌浩は両目から大粒の涙をぽろぽろ零しながら、首の辺りにひしっとしがみつく。

ぽんぽんと小さな背中を叩いてあやしながら、青龍をじろりと睨む。青龍は青龍で、ふいっと顔を背けるだけだ。

「ちと大人気ないぜ、青龍」

さすがに見兼ねた朱雀が口を挟むが、青龍の態度は崩れない。

「貴様らがその子供に甘すぎるんだ」

「お前ねぇ…」

やれやれ、と呆れた調子で肩を落とす朱雀。とりつく島もないとはこの事だ。

「だが泣かせる様な真似は控えてもらおうか」

「貴様の指図などなお受けん」

「青龍!」

思わず立ち上がった紅蓮と青龍の視線が、ぶつかり火花を散らす。
一触即発にも等しい緊張が一気に漂い始め、危険を感じた朱雀が、いっそ巻き込まれない内にこの場を去ろうかと考え始めた時だ。

「やめんか、2人とも」

堅い響きを持った勾陣の声が邸の廊下からした。
声のした方をみれば、顔から背格好まで完璧に露木に扮した勾陣が、呆れた顔でこちらを見ていた。

「騰蛇、昌浩の前でそんな顔をするんじゃない」

「あ…」

言われて抱きかかえたままの昌浩を見れば、相変わらず紅蓮の首にひしっとしがみついたまま額を肩に押しつけて顔を上げようとしない。
だが、しがみつく腕の力がかなり強くなっているのが判る。
それはまるで、紅蓮の怒りを押さえようとしている様ではないか。

「昌浩、」

「れーん…」

「悪かった…びっくりさせたな…」

「……ううん」

頭を撫でられての優しい声音に安心したのか、昌浩が腕の力を緩めて顔を上げる。
紅蓮を真っ直ぐ見上げる瞳は、もう泣いてはいなかった。


その様子を、既に見慣れている勾陣以外の一同が目を丸くして見つめていた。
あの騰蛇が、こんなに穏やかに微笑む事があったのか、と。

露木の姿の勾陣が青龍に近付いた。そして低い位置から青龍の後頭部を、ぺしん!とはたいた。
紅蓮が目を丸くし、朱雀は青ざめて思わず一歩退いた。
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