小説
□神将達の子守1
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青龍は、じろりと勾陣を睨む。
「…何をする」
「訊くのか?」
勾陣も同じ様に、目に厳しい光を灯して問い返す。
その声にも目にも、問い返す事を許さない気配がたっぷりと滲んでいて。
「……ちっ」
青龍はそう吐き捨てるだけに終わる。
次いで勾陣は紅蓮の元に行き、昌浩の頭を撫でた。
「…かあさま?」
首を傾げる昌浩には答えず微笑する。
「青龍を悪く思うな。あれなりにお前を守ろうとしての事だから」
「……?? うん…」
頷くものの、いつもと様子の違う母に、昌浩の混乱が端目からもはっきり判る。
うー、と頭を抱えだす昌浩を見て、紅蓮は可愛いなと苦笑を禁じ得ない。
「昌浩、これは母ではない。勾陣だ」
「……こうちん?ほんと?」
「本当だよ、昌浩。これで判るか?」
露木の声を一瞬だけ元の声に戻すと、昌浩は目と口を丸くし、きらきらと光らせて勾陣をじーっと見つめた。
朱雀もふむ、と苦笑しながら顎に手を当てる。
「だがその姿にその女傑っぷりが、凄まじい違和感なんだがなぁ…。どうせなら中身まで露木になりきってみたらどうだ?」
「それは勘弁してくれ。後で天一や天后に何を言われるか、想像が付きすぎてな」
「ははは、確かに」
「昌浩、手を出しなさい」
不意に勾陣がそう言い、素直に出された小さな手の平に、先程の毬を乗せてやる。
「まりさん!」
昌浩の顔がぱぁっと輝いた。
勾陣は次いで毬に語りかける。
「九十九神よ。どこから迷い込んだか知らぬが、今日だけこの子の遊び相手になってやってはくれまいか?この子は今、この邸を出る事が出来ずにいるのでな」
昌浩の手の上で、毬は頷く様に目を2回瞬きさせた。
「昌浩、この毬は、実はとてもじい様な毬なんだ。あんまり力を入れてはダメだぞ。いいな?」
「うん!」
「よし。では遊ぶ前に昼を食べなさい。お腹が空いたろ」
「はぁい」
紅蓮の腕からぴょんと飛び出して身軽に着地すると、とたたた、と再び元気に駆けて行く。
その背を見守りながら、ふと紅蓮が勾陣に問う。
「勾よ。お前が昌浩の食事を?」
「いや、やったのはほとんど六合だ。私は少し手伝っただけだ」
どこで覚えたのか手際が良くてな。加えて腕も良いから文句無しだ、と言って笑う勾陣。
対して紅蓮達は思案顔だ。
台所に立つ六合。
その姿が想像出来ず、各々が首を捻ってしまう。
まるで難問を解いてるような3人を見て、勾陣は声を上げて笑っていた。
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「……へっくし!」
昌浩を待つ食事の席で、小さくくしゃみをする六合の姿があった事は、誰も知らない。
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「れーん、すざく〜、せいりゅー、りくごー、みんなでかくれんぼしよ〜」
そして昼食の後にまた昌浩は遊びたいと言いだした。
子供の体力の際限の無さに、早くも朱雀と青龍は辟易しだしていた。
「成親も昌親も元気は良かったが、この子供ほどじゃなかった…」
「人はお前のそれを現実逃避と言うらしいぞ」
「……」
突っ込む青龍に、無言で佇む六合。
「勾陣は?」
「母親の仕事だと言って、洗濯中だ」
あの勾陣が洗濯とは…。確かに今は露木が匿われている為、代わりを努めるのが勾陣の仕事だ。
そう言う意味では実に真面目というべきなのだが…
「…うまく逃げてる気がするのは俺だけか?」
「いや、同感だ…」
思わず遠い目で語り合ったりしちゃう紅蓮と朱雀。
その2人に、更に六合が追い打ちを掛ける。
「朱雀か騰蛇、どちらかが後で火を起こしに来いと言っていた。」
「なんで?」
「…ごみを燃やせ、と」
『……………』
2人は自分の考えを少し改めた。
勾陣は真面目にやっているのではい。絶対愉しんで遊んでいるだけなのだ、と。
この調子で行くと、もし誰か水将が…玄武あたりがいたりしたら、確実に洗い物を水を操らせてやっていただろうと考えると、思わず一同の額に汗が浮かぶ。