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□お茶の嗜みについて
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〜月編〜





竜崎が僕に紅茶を入れるよう頼んできた。

仕方なしにキッチンに立てば、たまたま置いてあったケーキが目に止まったから紅茶と一緒に竜崎に出した。キーボードを打つ竜崎の手が止まる、僕は彼のモニターを覗き込んだ。体ごと僕に向かった奴はぎょろりとした目で見上げてくる。
なんなんだ。
勿論、不快さを微塵に見せることはない。

「僕はいつだって真剣だよ、竜崎。その気持ち悪く文法上破綻した言い回しはやめてくれないか」
「そんなことより話してくれるんだろうな」

時折、仕事を手伝うことがある。竜崎の興味を引いた事件は僕の琴線に触れるものが多々あり、(それが僕にとって、彼の元を訪れる第一かつ唯一の理由だったが)退屈しないでいられた。

な、なんて失態だ!スプーンが足りない。この僕としたことが!

「ごめん、待っていてくれ」


勿論、甘い物を目の前にした甘味狂いが待てる訳もなかった。


紅茶入りの砂糖を啜る甘味男に、何を与えても同じく砂糖を入れるに違いない。お湯で事足りると思う。…どのみち僕も一緒に紅茶を飲むのだから、白湯を出す機会はないか。
ケーキを頬張りながら喋るんじゃ、口の端からぼろぼろ零れた落ちる。そのケーキ、昨日僕が持ってきたんだった。勿体ない。
零れたケーキの一欠を床から拾って、竜崎に与えた。

――カッシャーン…払われる手と飛び散る皿。



「僕の指を舐めるんじゃない!」
「痛いです。舐めた内に入りませんよ、全く」


僕はもう一度、力一杯殴りつけた。






[END]
2007.9.2
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