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□檻の中
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なぜ、殺したのですか?
僕はいつだって僕だった。たとえ、気紛れな死神がノートを落とさなくとも、善人を悪から守り、人々を守れない秩序や仕組みがあるなら、僕は新しい秩序を創ろうとしたはずだ。その為に、父と同じ職業を選択した。
人が人の間に生きる限り、争いごとは絶えない。思惑が異なり、言い分は相違し、権利の主張は怠らない。
罪とはなんだろう。行動の結果を予見しえた事だろうか?予見しえた時点で罪が発生するなら、生きながら罪深いとは得てして言いえたものだ。もはや生きていること自体が罪だ。
あるいは、正義に背いた事?
お前の言う正義に反した僕は、様々な罪状と共に、囚われの身になっている。
だが、僕は自分がしてきたことの重要さと正当性に、疑問を持たない。
それで十分なんだよ。
お前は、僕を司法の手に引き渡し、僕の前から去っていけ。
お前の顔も、声も、なにもかも僕に残していくな。
あぁ、どうしてお前が僕に質問をするんだ。僕をどこまで失望させれば気が済むのだろう。初めて見た時から、おかしな奴だったけれど、ここまでおかしな奴だったとは、考えも及ばなかったよ。
新秩序を築いて、僕は家族や人々が安寧に暮らせる世界を想像した。僕は僕に出来る事をしたまでだ。なぁ、お前と僕を、一緒にするのは不愉快極まりないが、何の為に生きているかは、同じだろう。
その中で、僕は僕に出来る事を見つけたんだ。社会的責任を果たした。公正な裁きの手段がノートだった。目的を手段を、間違える愚をどうして僕が犯す。
手段のみを、誇張され取り沙汰された中にあって、僕の目的を見抜いた人もいる。
僕は裁き、方向を指し示し、それだけだ。不本意ながら、道半ばにしているが、これまでに果たした責任の重みを僕は満足している。
あと、少し…いや、よそう。
残念なのは、容易に予想できることだが、僕の目的を取り違えられること、それが残念でならない。
さりとて、僕は何を残そうとなぞしない。
相手の思考を推理する仕事のお前になら、分かると思った。
どうやら、買いかぶりのようだった。お前は、何故、と言う。
痴れたことを。