T

□契約
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くらり、視界が歪んだ。
―否、これは眩暈だ。ディスプレィが左右に揺れて、甚だ不愉快な居心地にさせてくれる。じっと、やり過ごす。

彼に悟られただろうか?

背後の気配を探ろうとして、私は失敗に気付く。
背後の気配が近寄ってきた。
睡眠をとるよう促すのだろう、だが、彼が私に声を掛けることはなかった。ただ少し近寄り、佇むまま。

そうか、と思う。
私が呼ばない限り、話し掛けない限り、ワタリは何もしない。

私が報酬を受け取った日から、まだ日は浅いからかだろうか。習慣かもしれない。

恐らく、移動先までは共におり、以後は、時間を共有するが場所は離れて過ごすだろう。

くらり、とする。やり過ごしてしまえば、やり過ごせることも、今日だけは彼と自分を許そうとし、
「終わりにします」
そう告げれば、ワタリは頷いて部屋を出ていった。

私は独り立ちした。
干渉は好まない。ワタリはそれでも近寄ったし、もしかすると声を掛けそうになっていたのだと、彼の表情から見当がついた。
背後を気にした私はどうなんだろう。

不要なファイルを床に一つ一つ落とせば、カサカサ音がした。


「L」
とワタリが呼ぶ。
呼ばれた先に。
椅子の上で眠る、十代半ばの少年がいた。



[END]
2007.04.05

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