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□キャノン(正典)
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かごめ、かごめ
かごのなかのとりは…
いついつ

―誰かの唄う声がする。
誰だろう…?

…くんヤガミくん

―あぁ煩いな。思い出そうとしていたのに。

「夜神くん」
僕は夢を見ていたらしい。流河と目があった。
「やあ」
「寝惚けてますね。起きて下さい」

やれやれと、ソファから僕は体を起こした。体にかけてあったブランケットが落ちる。
「これ、流河が?」
向かいにしゃがみこむ様に座る竜崎は、カクンと頷くものだから、僕は礼を言った。
「ありがとう」
多分、違うんだろう。
僕は大学から、そうだ、家へ戻らずここへ来たんだ。こいつの前で寝てしまうなんて、自分に腹が立つ。
だけど父さんたちはどこにいるんだろう。
「皆さんは帰宅しましたよ」
僕が回りを見渡し終えると向かいの男がぼそぼそと話し出した。
「夜神くんはお疲れのようなのでそのままに、と。ですが時間も遅くなりました。車を用意させたので少し待って下さい」
「や、いいよ。電車がまだ…」
時計に目をやる。 
「人身事故の為に一時運行がストップしています。いましがたのことです」
本当か、と口にする前に、チャイムが鳴った。
「失礼」
ドアの方へ消えていった。こう見ると流河は酷く猫背だ。身長は恐らく僕と変わるまい。L。
リュークが話しかけるのを目で制し、
「お待たせしました」
流河が戻ってきた。
紅茶とケーキを乗せたワゴンを押しながら。

「かごめかごめ、ですか」
「そう。日本のマザーグースだよ」
結局僕は、お茶を一杯付き合ってから帰ることになった。
「そうなんですか?遊びながら歌うのでしょう?」
妹が校庭で遊んでいたことを思い出す。あの、歌声は妹のものだったのだろうか。
「良く知ってるな」
ずず、と紅茶を啜る。イギリスにいたというわりには、流河のこの躾の悪さは何だ。
「懐かしい唄です」
「ふぅん」
女の子の遊びだぞ。お前はしたことがあるのか。
「日本にいたことは?」
「ありますが…」
以下、同文の台詞。
他人になりすましたり、偽名を使い分けたり等している人間を知るには、やはりその人間に近づくしかあるまい。
特に故意に姿をくらましている人間ほど。

飲んだ紅茶はとても美味しかった。
僕は、その日、車で帰宅した。運転手は高齢なわりにスマートな身のこなし方だった。


うしろのしょうめん

―だぁれ…



[END]
20070310

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