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□ふたり
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−無為に生きる
パラリ、パラリ…
−飼育
パラリ、パラ…
−嗚呼、だからとて帰る訳には

竜崎は、机上のノートを捲る手を止めた。
背後に気配。振り返り、手首を掴み、引き寄せた。彼が微笑んだ、かのようにしているから。

戯れに抱く。

彼の唇から言葉が失われて、幾日幾月が経たか。嬌声も罵倒も吐息も歌も、開いた口からは、洩れなかった。
彼の瞳から輝きが去って、薄いヴェールの目蓋が常に覆う。

時折見せる笑みと涙があった。

竜崎は月を追い、月は竜崎から逃げた。

理由はとうに忘れ去られ、気付いた時には二人きりだった。

―箱庭

時折、月はノートに触れ、竜崎の知らぬ間にノートは埋めつくされていった。

最後のページが尽きたら、月を手放して、姿を消そうと竜崎は思った。




[END]
20070227

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