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□ロマンスの始まり
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竜崎はこのところ、自身に違和感を持っていた。自分自身に頓着しない彼だったにしろ、責任の在処は自覚していた。
パソコンのキーを打つ。
「…松田さん、ちょっと」「なんですか?」
竜崎は、小一時間程中座する旨と、月が来た場合の指示を松田に伝えた。

竜崎は何種類かの薬を飲み、アンプルの中身を静脈へ注射した。
(安静にする必要がある…)
鋭い痛みは治まったものの、すぐには動けなかった。薬が強い。ソファに軽くもたれ、様々と思い巡らした。
(夜神は…来るだろう。)
竜崎は月の肉体を自由にしたかった。手に入れて、
(三日も続けて抱けば、片はつくのだ)
竜崎は自分に忠実だった。手に入れた途端にそれは色褪せることを知っていた。
たちまち興味を失う。
だがそれも、手に入れた後のことだ。今は違う。
(何をしている。夜神)


コンコン、と控えめなノックに続いて、
「竜崎、いるのか?夜神だ…」
「どうぞ、鍵はかかっていません」
内心、松田に舌打ちをした。
(夜神一人を遣るとは)
。必ず、連れてくるように伝えていた。月が、一人で大丈夫だから等々言ったのが想像にかたくない。
「なんだ、具合でも悪いのか?」
散らかった薬のビンと注射針を目ざとく見つける。
「鎮痛剤と…」
ビルのラベルはドイツ語で書かれていて、教養の深さが伺われる。竜崎は指摘した。
「単語だけなら分かるよ。それより、休んだ方がいい、熱でもあったら心配だ」
月はソファに浅く腰掛け、竜崎の表情を覗きこむ。竜崎に普段と変わった様子はなかった。
「ありがとうございます。ですが心配はいりません。今まで休憩していましたから。」
「そう」
「キラ捜査中ですし、夜神くん」
お互いに表情を探るようなかたちになる。
月が柔らかく言う。
「もう少し、休んだら?この部屋に来てそんなに時間は経ってないから休憩にしては足りないよ」
竜崎は月がいれば、どこでも不服なく、月もそうだった。
「夜神くん、一緒にいて下さいますか」
「勿論。具合が悪い時は誰かが居たほうがいいからね」
月は笑った。
「そう、ですねぇ」

どちらとも知れず、思った。
(キラを、目の前にして離せまい)
と。



[END]
20070225

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