【沖斎部屋】

□髪結い紐(☆)
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※こちらは、「夜這い」の続きになります。
 そちらから読むことをオススメします。



「あ、そーだ。一君。忘れ物」

皆が集う朝餉の席で、思い出したかのように僕は懐からそれを取り出した。

そう、情事を重ねた際、僕の部屋に一君が忘れて行った髪結い紐だ。
隣に座る一君に「はい」と差し出す。
皆の視線が、僕の持つ髪結い紐に集まるのを感じた。

「なっ・・!」

それまで黙々と食事をしてた一君の動きが、髪結い紐を目にした瞬間、ピタリと止まった。

「何本か持ってるみたいだけど、返すなら早い方が良いかと思って」

「総司・・!あんた・・!!」

今にも掴みかかりそうな勢いで僕の方に体を向けたかと思うと、強引に髪結い紐を奪い袂にしまう。

一君のらしからぬ態度に、近藤さんが口を開く。

「どうした、喧嘩はいかんぞ」

「違いますよ、近藤さん。僕達仲良しですから、喧嘩なんてしませんよ」

「そうか・・ならば良いが」

にっこり微笑む僕に、近藤さんは納得してくれたようだ。

「おい、斎藤。急にどうしたってんだ」

「すみません。何でもありません」

土方さんは黙っててくれないかな。僕の一君に気安く話しかけないで欲しいんですけど。

「何で総司が一君の髪紐持ってんだ?一君がそんな物落とすなんて珍しいっつーか・・」

「風呂場だろ、風呂場。斎藤だってたまにはボーっとしてる事だってあんだろ」

平助の疑問に、間髪入れず左之さんが答える。

「あぁ・・そうだな」

左之さんの言葉に、助けられたとばかりに一君が相槌を打つ。

「でも、昨日は一君の方が夜の巡察で最後だったんじゃ・・」

昨日は、一君の率いる三番組が夜の巡察だったため、当然風呂に入るのも最後だった。
一君より先に風呂に入ったはずの僕が、風呂場に忘れられた髪紐を持っているのは不自然だ。
平助って、こういう細かい所はよく気付くよね。

「平助。斎藤の心配も良いが、もっと自分の飯の心配をした方が良いんじゃねぇか?」

左之さんに言われて平助が自分の膳に目をやると、今日の朝餉の目玉である魚の開きを新八さんが横から掠め取るところだった。

「だあぁぁ!!しんぱっつあん、俺のおかずとんなって!!」

「よそ見してるのが悪いんだ、残念だったな!」

朝から元気な人達だなぁ。まぁいつもの事なんだけど。

騒がしい人達は放っておいて、チラリと横目で一君を見やる。
普段の、何を考えているか読み取りづらい表情で黙々とご飯を口に運んでいる所だった。

冷静に取り繕っているんだろうけど、かなり動揺しているみたいだ。

だって、左利きであるはずのキミが、右手で箸を握っていたから。
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