あの日の君は、

□青天白日
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今日は天気が良い。

ほとんど学校で過ごす学生達にとっては、風がないのも手伝って夏日のような暑さだ。


学生が暑さに負けず授業を受けている中、一人だけ日差しを直に浴びている人間がいた。

屋上にある貯水タンクに寄り掛かっているのは折原臨也である。

日差しをずっと浴びているにも関わらず、汗を全く掻いていない。

楽しそうに携帯を見つめては時折ニヤッと笑う。

画面に写し出されているのは、門田京平、平和島静雄と一緒にいる『神崎美雪』の姿があった。

それが今、彼が一番気に入っている人間の名前である。


新たに手に入れた情報を見る臨也の笑顔は崩れない。


「特に親しいのは幼なじみの門田京平、平和島静雄。クラスメイトとは付かず離れずの関係。恋人の存在は今までずっとなし。……もし俺が、美雪の彼氏になったら、」


──あの二人、どんな顔するんだろうねぇ。

──何よりまず、美雪が俺のことを意識するようにならないと。

「……楽しみだなぁ」


     ♂♀

地獄のような授業が終わり、昼休みとなった。

「…暑い…」

すっかり傷も癒えた美雪は、Tシャツで袖を捲っている。

土曜日は、門田と静雄にすっかり看病されてしまった。

そのおかげで月曜日には登校できた。

静雄の機嫌も良く、クラスメイトはいつも通りの平穏な日常を満喫している。


「ねぇ、静雄。後で看病してくれたお礼としてアイス奢るよ」

「あ?いいよ、気にすんなって」

「食べるよね?バニラ」

「………食う」

乳製品やら甘いものが静雄の好物と知った時には、可愛いと笑ってしまった。

顔を赤くした静雄には怒られたのだが。

「じゃあ、京平のとこ行こっか」

「……ん」

美雪は弁当を持ち、静雄も売店で買ったパンを手に門田のいる教室へ向かった。


近付くにつれ、騒がしくなっていく。

女子生徒のじゃれつくような声が響く。

「何だ?」

静雄は、大方女子が好きな俳優かアイドルグループの話で盛り上がっているのだと思っていた。

しかし、次に聞こえてきた言葉で静雄の予想が外れていたのを理解する。

「門田くんって、何で彼女作らないのー?」

──!……あぁ、質問攻めにあってんのか。


この時期になると、学校にも慣れてきた女子が男子に話し掛けるのも少なくない。

そのターゲットとなったのが門田だっただけだ。

「……俺、好きな奴いるから」

門田は最小限の言葉で、それでも正直に話す。

「えー?誰誰ー?」

「………」

話に花を咲かせている、とまではいかないが、門田を呼ぶ隙がない。

門田も門田で、嫌だという表情を浮かべていることもなく、無理矢理話を中断させることを躊躇わせる。

「へー…京平って好きな人いたんだ…」

そのことを聞いたのは初耳で、美雪は呟いた。

その呟きを聞いた静雄は、教室のドアに隠れている美雪を見つめながら心中で答える。


──お前なのに…。鈍感かよ、ったく。

その事実を彼女に伝えることが出来るわけもない。

静雄が教室を覗くと、だんまりを続けていた門田が二人に気付いた。

「…あ。連れが来たみたいだ。じゃあな」

「えー!?」

不満そうな声をあげる女子生徒が、門田が向かうドアを睨む。

正確には、静雄と美雪なのだが。

すぐに目を逸らしたのは、不良という良くない評判の静雄がいたためだろう。

そんな女子生徒の視線など気付く筈もなく、門田は二人に笑いかける。

「わりぃ。ちょっと話しててよ」

「…大丈夫?ごめんね、あの子と話してたのに」

『あの子』は、面白くない、といった表情で友人の輪の中へ戻っている。


「ああ…大した話じゃねぇから。気にすんな、な?」

「そう…?」

疑問に思いながら歩き出す美雪の後ろを、門田と静雄が追う。

美雪に聞こえないよう、小声で門田に問い掛けた。

「門田。さっきの話聞いちまってた。…美雪も」

「…あぁ、そうなのか」

苦笑しつつ、門田は美雪だけを見つめている。

「こいつ鈍いからな。好きだってこと気付いてねぇし」

「……いいのか?」

「いいも何も…この関係で結構満足だしな。こいつも"京平"って懐いてくれてるし」

これが、門田京平と神崎美雪の関係。

何年一緒にいたんだ、と気になるほどだ。

幼なじみであるため、10年以上の付き合いだと分かる。


そこで、静雄は新たな疑問を口にする。

「……もし、美雪に好きな奴が出来たら?」

その質問は、門田にとっても静雄にとっても、一つの『絶望』を意味する。

もし彼女に好きな男性、もしくは恋人が出来たら、美雪という『好きな人』を失うことになる。


門田は目を瞬かせて、考える仕草を取る。

「その時はその時だな。そうなってから考える」

ある意味門田らしい答えに、静雄はそれから黙った。
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