あの日の君は、
□合縁奇縁
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チャイムが鳴り、テストが回収される。
静かにテストを受けていた時とは真逆に、生徒たちはわっと騒ぐ。
「どうだった?」「もう無理。死んだわー」
「問2の答えって3?」「うわっ、俺違う答え書いちまった」
「このあとカラオケ行かない?」「いいねー、行こ行こ!」
その喧騒の中、携帯のメールを確認する少女。
美雪は、折原臨也からのメールをチェックしていた。
From:折原臨也
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本文
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新しい情報だよ
どうやら、子供に名前はないらしい
ま、無名ってことだね
最近ここに来る回数も増えてるらしいし、運が良ければ会えるかもだってさ
その子供、いじめにあってるっぽいよ
いつもあちこち怪我してるから、っていう理由でね
あ、これはいい情報かも
この子供なんだけど
「……ちゃん。美雪ちゃん!」
女子に名前を呼ばれているのに気付き、声の方を向いた。
「門田くんが来てるよ?後平和島くんも待ってる」
「あ、ありがとう」
「またね。美雪ちゃん」
ひらひらと手を振るクラスメイトに手を振り返す。
「うん、またね」
ドア付近に門田京平と平和島静雄が待っており、美雪は謝りながら駆け寄る。
「ごめんね。京平、静雄」
「…お前、何かあったろ」
鋭い指摘に、心臓が跳ね上がった。
幼なじみの勘という奴なのか、門田には何かあった時、いつもすぐに見破られてしまう。
「ずっと携帯見てたし、難しい顔してた」
「…確かに勉強会の途中から、様子が変になったな」
真剣な面持ちの門田に、妙なところで記憶力を発揮させる静雄。
「……何かあったんだろ?」
言うべきか否か。
言ったら言ったで気まずくなってしまいそうだが、この二人ならばそういう雰囲気になることはない。
言わなかったのなら、二人に余計な心配を掛けてしまう。
それに、『信用できないのか』と二人を悲しませてしまう可能性がある。
それは絶対に避けたかった。
美雪は意を決し、二人に話すことにした。
♂♀
「……美雪」
事情を聞いた静雄がいきなり美雪の肩を掴んだ。
「お前、そういうことならもっと早く話せよ!俺はバカだけどお前はもっとバカだ!バカ野郎…!」
「……ごめん」
それっきり黙ってしまった静雄の頭を撫でる。
その手の重みに任せ、静雄は頭を下げる。
「美雪。お前は何でもかんでも一人で突っ走りすぎだ。近くにいる俺や静雄に話せよ」
「京平……ありがとう」
門田はやっと表情を崩し、微笑んだ。
♂♀
「つーか、そのガキって一体何なんだ?」
静雄の質問に美雪は分からない、と首を横に振った。
「なんか、いじめられてるらしくて……」
「ガキでもそんなくだらねぇことやってんのかよ」
臨也からのメールを見ると、殴られたり蹴られたりしていると考えられる。
──そういえば、さっき途中から見てなかったな……
携帯を取り出し、放置していたメールを読む。
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この子供なんだけど
今の時間帯に良く現れるみたいだよ
だから…お昼くらいかな
捕まえるかは美雪の自由だけどね
このくらいかな。
また何かあったらメールするよ
───────────
「…おい、あの子供…」
門田が指差した先には、ランドセルを背負い、高校の前でうろうろしている少年だった。
「あ…あの子かも……ちょっと話し掛けてみる…」
「…話出来そうだったら俺らも後から行くから」
美雪が単独で向かうと、少年はこちらをじっと見つめ──走り出した。
逃げるためではなく、美雪の元へと向かうために。
迷子の子供がやっと母親を見つけたときのような安堵した表情で、少年は叫んだ。
「美雪お姉ちゃん!」