あの日の君は、
□呵呵大笑
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二人は私服を身に纏い、祭り囃子が聞こえる通りを見る。
提灯の明かりで赤く照らされ、祭りに来ている人々を更に楽しませる。
祭りの入口で待っていると、声が響いた。
「ごめんね、遅くなっちゃって……」
「いや、気にするほどでも」
門田は言葉に詰まり、彼女を見つめた。
静雄もそれに気づき、美雪の方を向き──固まった。
てっきり私服で来ると思っていたが、可愛らしい柄の浴衣を着た美雪がいた。
髪をいつもより整え、見慣れない姿に二人の心臓が高鳴る。
「その……似合ってるぞ」
視線をあちこちにやり、照れ臭そうに呟く門田。
「あ、あの……か……可愛いな」
顔を真っ赤にし、同じく美雪を直視できない静雄。
「ホント?ありがとう!」
浴衣姿が彼女の笑顔を更に愛らしくする。
二人が提灯が赤くて良かった、と思うと、美雪の後ろから出て来た弟が二人を見上げた。
「お。来てたのか、優」
「うん!僕、お祭りって来たことなくて」
好奇心が旺盛なのか、目を輝かせて祭りの方角を見ている。
「それじゃ行こうか」
出店が並ぶ道を歩くと、美雪に見入っている者が結構いる。
しかし、すぐに目を反らすのは横にいるナイトとキングが目を光らせているからだ。
そんなことも知らず、優は握っていた姉の手を引っ張る。
「美雪お姉ちゃん!僕、あれ欲しい!」
「ん?」
先にあったのは、飴細工をやっている店だった。
子供に渡された飴で作った動物が気になったのだろう。
動物やゲームに出て来るモンスターなど、バリエーションは豊富だ。
「何がいい?犬とか猫とか色々あるよ」
「えっと……じゃあ……ウサギ!」
仲睦まじい光景だ。
屋台に行き、ウサギの飴細工を頼む。
ただの塊だった飴が見る見る内に変貌していく。
「うわ、凄ぇ……!」
「さすがプロだな……」
巧みな技術に感動する青年が二人。
飴に赤い塗料で目をつければ、完璧にウサギだ。
にこやかに渡す店の主人に優はお礼を言う。
食べるのが勿体ないのか、ずっと持ったままだ。
歩いていると、急に人が増えた。
優は人にぶつかり、飴を落としてしまった。
しかもぶつかった相手が強面で、軽くリーゼントをした男だ。
見るからに不良。
泣き出した優に、案の定絡む不良。
「何だよ。ぶつかってきたのはそっちだろうが」
周りには仲間と思しき者も数人か居て、姉弟を取り囲む。
「姉ちゃん、このガキの保護者?」
「はい。この子の姉です」
「浴衣だよ浴衣!しかも可愛いぞ!」
美雪を舐めるように足先からずっと見てくる不良達。
「保護者なら、責任取ってくれるよな?」
「……?」
いまいち意味が分からず、首を傾げる。
「俺、そのガキにぶつかったから怪我しちゃったのよ。嬢ちゃんなら、身体でも……」
「失せろ!」
リーゼント男は吹っ飛ばされ、本当に怪我を負う羽目になった。
かなり怒っている時の静雄の拳は、特に強烈だ。
仲間はその光景に怯え、そそくさと逃げていった。
「あ、ありがとう静雄……」
「俺らから離れんなよ。ていうか優、男ならそんな落ち込むな。おら」
静雄は新しい飴を優に渡す。
「ありがとうしずおお兄ちゃん!」
照れ隠しなのか、スタスタと歩いていった。
美雪は慌ててそれを追い掛ける。
「静雄、京平は?」
「あっちで射的やってる」
指差された先には確かに門田がいた。
門田の射的の腕は異様に上手く、景品をほとんど取っている感じだ。
「京平上手いねぇ!」
「……店のオヤジは泣いてるけどな」
静かに涙を流す店主に苦笑する。
クスクス笑う少女を静雄は見下ろした。
──いつもの美雪……だよな。
──門田と相談して、祭りに誘ったのは正解だったのか?
母が亡くなり、最近元気が無かった美雪。
彼女を笑顔にしたくて、夏祭りに誘ってみたのだが。
「どうしたの?静雄」
不意に美雪がこちらを向いたので、顔を赤くする。
浴衣姿に見とれてしまったが、優の声で我に返った。
「きょうへいお兄ちゃんすごーい!」
両手に持った袋の中身は、射的で取った景品だ。