あの日の君は、

□百花繚乱
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「美雪……?」

名前を呼ばれ、少女は後ろを振り向く。

ニット帽を深く被った、精悍な顔つきの青年。

後ろにいる、紙袋を両手に持った二人組の男女が、青年と少女を交互に見ている。

その顔には、見覚えがあった。

「……京平?」

青年がニット帽を取ると、オールバックの髪型だった。

「京平!」

ぱあっ、と少女が明るく笑う。

門田が何か言おうと口を開いた時、後ろにいた男女がヒソヒソと話し始めた。

「ねぇねぇゆまっち、ドタチンの何だと思う?」

「そうっすねぇ。門田さんのことを呼び捨てにしてるところを見ると……遠距離恋愛中の、」

「彼女?彼女?」

ヒソヒソ話の割には大きな声だったため、門田には丸聞こえだ。

二人に黙るように言うと、美雪に向き直る。

「……帰って来たんだな」

「う、ん」

数年振りに会ったためか、ぎこちない会話。

門田は後ろにいる二人に、西口公園まで行くと言った。


高身長の門田を見上げる。

大人っぽくなった、と思う。

ニット帽を取れば男前だが、帽子は帽子で良く似合っていてこれまた男前だ。

西口公園に着き、門田にジュースを奢られた。

噴水の傍にあるベンチに座る。

「……元気にしてたか?」

「あ。うん……みんなに会えなくて寂しかったけど」

自嘲気味に笑うのを見て、門田は少女をぎゅっと抱き締めた。

「!きょっ 京平!?」

周りが注目し、恥ずかしさが募る。

「……やっと戻って来たな……」

今、純粋に嬉しかった。

数年会えなかった彼女が、ここにこうしているのだから。

「静雄にも連絡する。ちょっと待ってろ」

美雪を離し、携帯を取り出す。

数回のやり取りの後、門田は美雪を見た。

「何処に行ってたのかは問わねぇ。お前が戻って来ただけで、俺は十分だ」

彼は、相変わらず優しい。

モテるだろうなぁ、と考えていると、声が公園中に響き渡った。


「……静雄?」

金髪は前のままだが、サングラスとバーテン服が異様に似合っている懐かしい顔が、息を切らしていた。

公園で戯れていた人間が、「平和島静雄だ」と、ざわつく。

静雄は靴をカツカツと踏み鳴らし、少女に近付いていった。

「しず……おっ!?」

むにっ、と両手で顔を挟まれる。


「美雪か!?美雪だよな!?戻って来たんなら早く言えよ!!」

「ほ……ほへん」


静雄が近付いていった少女に、辺りが騒がしくなる。


手が離れ、赤くなった頬を撫でる。

「あ……わりぃ。強くやり過ぎた」

「大丈夫だけど……来るの早くない?」

門田が電話を掛けた数分後に、静雄は現れた。

近くにでもいない限り、これ程早く来るのは不可能だろう。


「いや、美雪が帰って来たって聞いたから……飛んできた」

「……そっか。えっと、恥ずかしながら、今帰って来ました」


門田と静雄は、少女に笑いかけながら──


「「おかえり」」




   ♂♀

少女と別れ、門田は遊馬崎達のいるワゴンの場所へ、静雄は待たせてしまっている上司の元へ戻った。




「あ。おかえりー、ドタチン」

車の中で本を読んでいた狩沢が、助手席に乗る門田に問うた。

「さっきの子ってさー、まさか神崎美雪ちゃん?」


まるで知り合いかのように、フルネームで呼ぶ狩沢。

更に遊馬崎までもが、少女のことを知っているかのような口ぶりで言う。

「最初見た時は分かんなかったすけど、門田さんのあの様子……美雪さんとしか考えられないっすよねぇ」

「……お前らな」

呆れ気味に頬杖をつく門田に、後ろで騒ぐ二人の男女。


「だってさー、ドタチンってばいっつも美雪ちゃんのこと話してたじゃーん」

何時頃からか、渡草、遊馬崎、狩沢と行動するようになった。

事あるごとに、門田は自分の幼なじみである少女のことを話していたのだが。

彼女のことを話す門田が、妙に嬉しそうなのが印象的であった為、二人はそのことをしっかりと記憶していた。

「その時の門田さん、恋する乙女の如く初々しかったっすよ」

「誰がだ!」

後ろの席に向かって怒鳴る。

だが、余り効果はなく、逆に二人を沸かせる材料となってしまう。

「あーあー、私も美雪ちゃんと話してみたかったなー」

「そうっすよねぇ。門田さんってば、俺らから遠ざけるように美雪さんを連れていきましたからねぇ」


あっという間に美雪の話題で盛り上がる。

「でさでさー、美雪ちゃんってば、コスプレに最適の人物だと思わない?」

「俺は、もふもふの尻尾にもふもふの耳が似合うと思うっす!」

「わっち?わっち?」

などと、良く分からない言葉を次々と重ねる二人に、門田は内心溜め息を吐いた。
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