あの日の君は、
□虚心坦懐
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「ど…ッ、どうした?」
「静雄くん、具合でも悪いのかなって…」
「…いや、悪くねぇ…」
「そっか、良かった」
美雪の笑顔を見ると、嬉しいのと同時に壊したくない、傷つけたくないという感情が沸き上がった。
……俺の力を目の当たりにしたら、美雪は……
周りと同じ、彼女の恐怖と嫌悪の入り混じった目を想像するだけで……絶望を覚えた。
今までもそんな非難の目に耐え、慣れていたところだったのに──。
そんな静雄を見た門田は、前を向いたまま小さな声で言った。
「…安心しろ。美雪は、お前の『力』を見ても、周りの連中みたいにはならねぇよ…絶対にな」
美雪を見る門田の目は、妹を見守る兄のような優しい目。それでいて、大切な者を愛おしむような目をしていた。
「…そういう女だ。だから…………惚れてる」
「あれ。私の知らない間に随分仲良くなったんだねぇ」
「「………」」
──お前の話だよ…気付けよ鈍感…ッ!
この二人は、なかなか気が合うように思える。
「また放課後ね、京平」
「おう。授業中に眠るなよ」
「むっ。寝ないよ!」
違うクラスの門田に手を振ると、彼も手を軽く挙げながら教室に入っていった。
「じゃあ行こうか、静雄くん」
「そうだな」
教室に入ると、一気に静まったクラスメイト。
『平和島静雄』に、少なからず警戒心を抱いているようだ。
気にしないようにしながら、静雄は鞄を机に置いた。
──なぁ、あれって平和島静雄か…?
──あぁ、あいつか…
──なんか昨日も暴れまくってたらしいぞ…
(………ウゼェ)
わざとらしい音量の声に、静雄はキレかける。
が、美雪が自分の机に近付くと、抑えることができた。
「静雄くん。今日は放課後用事ある?」
「いや、ねぇけど…」
「ホント?ならさ、ちょっと本買いに付き合ってくれないかな?」
「お…おう」
「良かったー。ありがとう静雄くん」
───キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、美雪は静雄に手を振って席に戻った。
静雄は時折美雪の方を見る。
目が合うと、笑い返してくれて顔が熱くなった。
それから休み明けテストを受け、昼休みになった。
静雄が美雪の元へ行こうとした瞬間、
「──やあ、久しぶり」
「…?」
静雄が振り向くと、眼鏡をかけた青年がいた。
……あれ。俺にこんな知り合いいたっけ。
「…ちょっ。まさか覚えてないってことはないよね?小学校の時一緒だった、岸谷新羅だよ!」
「きしたにしんら?…………」
根気よく記憶を引っ張り出していくと、静雄の頭にある少年の顔が思い出される。
──そういえば、何となく面影があるな。
「……で、何か用か?」
「ん?いやね、今朝一緒にいた女の子───静雄の彼女かなーって」
思わず椅子から立ち上がって、しかもその椅子がガタンと倒れた。よっぽど慌てたらしい。
「はっ!?ち、違っ!いやそうだったら嬉しいけど!美雪はっ……」
「そうなの?まあ俺には将来お嫁さんになる予定の人がいるからね!静雄も頑張りなよ!」
デレデレと締まりのない顔つきになるかつての馴染みをぶん殴ってやりたいと思った。