あの日の君は、

□青天白日
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    ♂♀

携帯を弄っている臨也に、話し掛ける男子生徒がいた。

「臨也?」

「…新羅か。何か用?」

中学時代の友人、と言うには微妙な間柄の岸谷新羅。

新羅は皮肉と言える言葉を臨也に贈りつける。

「いつも周りに女の子たち纏わり付かせてるくせに、今日はぼっちなんだね」

「うるさいな。俺は今忙しいんだよ」

携帯からは決して目を離さない。

新羅は察したのか、口角を上げて笑みを浮かべている。

「ニヤニヤするなよ。どうせまた『愛しい同居人』のことでも考えてたんだろ?」

「何言ってるの。僕はセルティのことだけしか考えてないよ」

「……」

新羅の、特殊な性癖。

それを中学時代に散々聞かされてきた臨也は、肩を竦めて携帯を閉じた。

屋上から出て行こうと、臨也は出口へ向かう。

「…はあ。人間無関心だな、相変わらず」

「そういう臨也は、神崎さんのことでしょ?」

歩く足を止める。

臨也はゆっくりと、自分に笑顔をずっと向けている新羅の方に顔だけを振り向かせた。

「何で分かった、かは俺も良く分からないな。でも、臨也の目が私の目と酷いくらいに似てたからね」

「…何言ってんの、新羅。どういう目っていうのさ」

「…一人の女性を愛して愛してやまない目」

ザアッ、と二人の間を生温かい風が吹き抜ける。

臨也の眉間に珍しくシワが寄り、新羅を睨んだ。

「…さあ、どうだろうね?俺は人間全てを友人、恋人、家族のように思ってるから。あ、シズちゃんを除いて」

「…自覚してないならいいや」

はあ、とわざとらしく溜め息をつく。

臨也が屋上を出る寸前、新羅が何かを呟いたが彼には聞こえなかった。

「……"恋をする目"と言った方が良かったかな?ていうか、怒るってことは"はいそうです"って言ってるようなもんだよ。後で自縄自縛しなきゃいいけど」

それを言ったところで、もう数少ない友人はいない。




    ♂♀

今日は暑いので、屋上ではなく教室で昼食を取った三人。

今は暇つぶしで図書室に向かうところだ。

「あ、そうだ。京平、後でアイス奢るからね」

「?何だよ、いきなり」

「土曜日看病してもらったお礼」

「…そうか。なら、ありがたく貰っとくわ」

──…臨也にも、アイス奢らなきゃな。多分心配させただろうし。


ドンッ

美雪が廊下を曲がった瞬間、誰かとぶつかった。

悲鳴をあげる暇もなく、尻餅をつく。

「あたた…す、すみません」

尻を撫でながらぶつかった相手に謝る。

青年は、転んでもいなければ痛がっている様子もなかった。

ただ、美雪をじっと見つめていた。

「……………美雪」


臨也だった。

いつもの柔和な笑みを浮かべていない。

何かあったのか聞こうとすると、先に口を開いたのは臨也と水と油の関係である静雄だった。

「臨也ぁあ……土曜日は逃げ切ったつもりみてぇだが、そうはいかねぇからなぁ…」

「……………何だ、ドタチンとシズちゃんも一緒か」

いつもならば、静雄を笑いながら挑発するが、今回は可笑しい。

臨也の声に覇気がないこと、臨也の顔から笑顔が消えていること。

「今ここで土曜日の借りをきっちり返してやらぁ!」

「ちょっと、勘弁してよ……俺は今気分が悪いんだ」

「丁度いいじゃねぇか、ついでにぶん殴ってやるよ」

「何が丁度いいのさ。…でも、やっぱりシズちゃんに殴られたら死にそうだからなぁ」

まだ尻餅をついたままの美雪は、急に引っ張られる。

態勢が整わないまま強制的に走らされ、美雪の足がふらつく。

何が起こったのか分からなかった門田と静雄だったが、美雪が臨也に連れていかれることが数秒後に分かった。

「シズちゃんとやり合う気は毛頭ないし、俺は美雪に用があるんだよね!だから借りるよ!」

勿論、二人は追い掛けてきたが、途中の空き教室に逃げ込み、去っていくのを待った。

足音が遠ざかり、臨也は息を切らしている美雪を見た。


「はあ…はあ………」

「……………」

──おかしい。俺が、美雪を?

彼女は至って普通の女子高生である。

顔立ちは整っているため、臨也と同じ容姿端麗の部類に入るが、それ以外は一般人だ。


そんな美雪に好意を抱く理由が見つからず、新羅の妄想だと頭の隅に追いやった。

「…あ……臨也?」

「…なに?」

「…あー…その…私に用があるって…」

「…………」


確かに言ったが──臨也は美雪に、用などなかった。


二人になりたかった、などという台詞は、臨也の頭にはない。

、、、、、、、、、
無意識で連れてきた、とは気付いていないらしいが。
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