あの日の君は、

□満心創痍
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   ♂♀

「あらら……やっぱり倒れちゃったのか、美雪」

大丈夫かねぇ、と心配しているのか違うのか分からないが、今の臨也から笑顔は消え去っていた。

「……今あの子一人なのに」

臨也は再び、大丈夫かねぇ、と呟いた。

「俺の彼女、凄く慌ててるだろうな」



「"早く帰らなきゃ!"とか言って、ね」







    ♂♀

起き上がろうとする美雪を、門田と静雄は必死に止めていた。

「あの子一人で家にいたんだ……!


早く帰らなきゃ!」

「だから俺らが行くって!」

「でも……!」


「いいから!頼れよ!」


門田が言うと、美雪はピタッと止まり、落ち着いた様子で二人を見つめた。


「京平、静雄……お願い」

「任せろ」

「あぁ」

二人は顔を見合わせて頷くと、玄関へ向かって走り出した。

「美雪のことよろしくな」

「じゃあな、二人とも」

それぞれ新羅とセルティに向かって言い、壊れたドアノブを掴んで玄関を飛び出した。



静雄の手の形に変形したドアノブを見て、新羅は溜め息をついた。





   ♂♀

「なぁ……本当にやんの?」


「当たり前だろ!……あの『美雪』って女を誘い出すには最高のエサだからなァ」

「まだ子供だぜ?」


「まだ子供だからいいんだろうが。平和島静雄や門田京平よりはよっぽどマシだろ」

「……ホントに来んのかよ、『美雪』ってやつ」


「来るに決まってんだろ。アイツらは『姉弟』だからな」


「そしたら、弟と引き替えに?」

「おう。弟を助けたかったら俺らにさらわれろってな。黒バイクにはついさっき断られちまったし」



「まあ、こんな女一人連れてきたくらいで金が入んだから、オイシイ仕事だよなァ」


「んじゃ……乗り込むとするか」





   ♂♀

門田と静雄は、アパート前であることに気付いた。

「……?電気ついてるぞ」

「起きちまったのかもな」

美雪を探しに外に出てしまった、ということも有り得るが、まずは部屋を確認してみることにした。

ドアはすんなりと開き、ますます一番危険な可能性が高まる。

「……開いてる」


静雄が独り言のように言い、部屋を覗く。

リビングだけ明かりがついているようだ。

静かに上がり、足音を立てないように歩く。

もしかしたら優が起きてるのかもしれない、ということを踏まえて。

ドアを開けた先にあった光景は、アパートには決して似つかわしくないものだった。

サングラス、黒スーツを纏った強面の男たちが、10人以上でリビングに屯っている。

男たちは一斉にこちらを向き、サングラス越しに二人を睨んだ。

普通ならば怯えてしまいそうなその目つきだが、二人は全く動じることもなく。

「何だ手前ら……」

静雄が額に血管を浮かべながら問う。

黒スーツの中で一番優男である男が、いきなりああっ!と悲鳴を上げた。

「かかかか、門田京平に、へい、平和島静雄だ!」

「なっ、コイツらがか!?」

もっと筋肉隆々の現役プロレスラーのような男を想像していたらしく、心底驚いていたが二人の見た目に安心したのか、男たちは急に笑い出した。


勿論、一番の優男は冷や汗を流して今にも逃げ出しそうだ。

「こんな奴らにビビってんなよ。明らかにハズレじゃねぇか」

「あぁ?つーか手前ら、美雪の家で何やってやがる」

「そうだ。何ならコイツらに力ずくで聞き出そうぜ」

赤みがかった髪に染め上げた男がニヤつきながら、仲間たちに告げる。

すぐに、賛成だ、そりゃあいい、と夜中にも関わらず騒ぎ出す。

「……門田ぁ。聞いたか?力ずくだってよ」

「聞いてるよ。でも美雪ん家ではやりたくねぇな。それに近所迷惑だ」

「奇遇だな、俺もそう思った」

つくづく冷静で話す二人に、男たちは大人数で殴り掛かる。


「「話聞いてたのか?」」

門田と静雄が男を一人ずつ殴り飛ばす。

窓際まで飛んでいき、ガラスに頭を強く打って気絶した。

「静雄、このアパートの窓ガラス割れにくいっぽいけど、あんまやんなよ」

「おー。そりゃいいぜ。今の俺、ちょっとキレかかってんだよ」

さっきまでと真逆の雰囲気に、男たちはとてつもない恐怖を覚える。

それでも勇猛に挑んでいく仲間に続くが、あっさりと倒される。

殴る蹴る、といったシンプルな戦い方だが、実際プロレスラーとタイマンで戦ったら、いい勝負になりそうだ。


優男は、震えながら自分の仲間たちが次々と倒されていくのを見ていた。


──何だコイツら。

──ありえねぇくらい強い。

──こんなに強い奴ら初めて見たぞ。

──俺もあんな風にボコボコにされんのか──


優男は軽く狂った状態になり、スーツの内ポケットから折りたたみナイフを取り出し──ガタガタと震える足を踏ん張って構えた。


「うわぁああああッ!!」

ナイフを突き出して突進する先には、仲間を殴り飛ばしていたオールバックの青年。

男の胸倉を掴んでいた静雄はそれに気付き、叫んだ。

「門田!!」

優男は懐に入り込むと、手に肉を貫いた感触が確かにあった。

「……ッ!」

門田の表情が痛みで歪む。

優男はそれを見て笑うが、門田に頬を殴られ、床を転がった。

「…いてぇ…ッ」

脇腹を押さえてしゃがみ込む。


静雄は倒れている男たちを避けながら、門田の元へ寄る。


「大丈夫か?」

「てッ…あぁ、なんとかな…」

「ちょっと待て、新羅呼ぶから」


「おう…」

新羅に電話をすると、直ぐに繋がった。

『門田君が怪我?……分かった。とりあえず、止血しといて。ガーゼとかでね。後ナイフは抜かないで。出血が酷くなるから』
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