あの日の君は、
□初志貫徹
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私の探しているもの。
それは自分の首。
初めて出来た女の子の友達。
あれからずっと探してるのに。
♂♀
馬のエンジン音を轟かせ、セルティ・ストゥルルソンは西口公園までやって来た。
数十分前、平和島静雄より電話を貰ったからだ。
「よう、セルティ」
静雄が軽く手を上げたので、自分もそれに応える。
何だかウキウキしているようで、セルティは首を傾げた。
「わざわざ来てもらってわりぃな」
『いや、構わないが……どうした?』
問えば彼は嬉しそうに笑う。
「あのさ、美雪が帰って来たんだ」
一拍置き、セルティは身を乗り出した。
『……ほ、本当か!?』
「あぁ。それでさ、明日……」
静雄が呼び出した理由が漸く分かり、セルティは了承した。
とにかく明日が待ち遠しかった。
♂♀
昨日は確かに、今日が楽しみだった。
遠足前の子供さながら、ワクワクとしつつ眠りについた。
ただ、今この瞬間だけは──セルティは帰りたかった。
静雄に誘われ、美雪が帰ってきた祝いとして、露西亜寿司へやって来た。
別に場所がどうとか言う訳ではない。
そこへ集まったメンバーが、門田京平、平和島静雄、優は理解出来る。
門田の仲間である三人もいるのは分かる。
遊馬崎や狩沢が、駄々をこねたのだろう。
新羅も、セルティが誘った。
それならば、メンバーは合計で9人になるはずだったのだが。
今いるのは10人だ。
何故ここに、折原臨也がいるのだろう。
静雄と喧嘩になるのが目に見えているはずなのに、誰が呼んだのか。
店先で呼び込みをしていたサイモンに挨拶をし、店内に入ろうとした時、臨也がタイミング良く現れた。
案の定、静雄が街灯を引っこ抜いて投げようとしたが、これも案の定サイモンに止められた。
連れられるまま、一番広い座敷の方へ移動したが。
──く、空気が最悪すぎる……
一般人がここに放り込まれれば、窒息してしまいそうだ。
原因は間違いなく、静雄と臨也が居合わせているからだろう。
「やっぱさ、寿司は大トロに限るよねぇ」
更には美雪にべったりと引っ付き、喋っている臨也。
臨也に負けじと、美雪のすぐ隣で頬杖をついている静雄。
──うわぁ……静雄の後ろに鬼がいる……。
そんな錯覚に陥るが、セルティはそれを頭から追い出し、久しぶりに女友達を見てみた。
静雄に臨也という相性最悪のコンビに挟まれ、お茶を持ったまま固まっている。
──……美雪がとても居辛そうだ……
止めに入った方がいいのだろうが、余り騒がしくしたくない。
静雄も、店の中では大人しく座っている。
ただ、遊馬崎と狩沢は本の話で盛り上がっているため、沈黙という最悪な雰囲気はない。
「ていうかシズちゃん。美雪が可哀相だから離れなよ」
「手前がなノミ蟲野郎」
──どっちも離れろ!
セルティが頭を抱える。
火花を散らす二人の間に、ちょこんと座る少女。
そんな中へ、空気を壊すようにサイモンが寿司を持って現れた。
「オー。喧嘩、よくないヨ。スシたべる、スグ仲直りできるネ!」
手際良く並べると、ニコニコと笑顔を浮かべる。
セルティを除く全員で『いただきます』と挨拶し、寿司を口に運ぶ。
ワサビが程よく効き、舌を刺激する。
落ち着いてきた雰囲気になり、皆がホッと息を吐く。
「あ、美雪。しょうゆ取って」
自分でも届く距離なのに、わざわざ美雪に取らせる。
静雄は臨也に対し、舌打ちをした後、握り潰さん勢いでコップを持つ手に力を込めた。
「……そんくらい自分で取れ。いちいち美雪を使うなノミ蟲。死ね」
「俺が誰に何をしてもらおうと勝手でしょ。ていうかシズちゃん。何さりげなく自分の方に美雪寄せてるのさ」
また始まった……と呆れる一同。
ついにキレた静雄は立ち上がり、臨也に表へ出るように言う。
あのままでは外で戦争のような争いが起きてしまう。
セルティが止めようとPDAに指を滑らせた瞬間。
ヒュンッ、という音。静雄と臨也の間を、何か鋭利なものが通った。
恐る恐る見ると、出刃包丁のような刃物が柱にガッチリと刺さっている。
直後、達者な日本語が聞こえてきた。
「女取り合う前に、先ずは気遣ってやることだ。でなきゃ、他の野郎に取られちまうぞ」
デニスが、魚の血がついた包丁を上げて見せる。
その血は魚のものである筈だが、何故かリアルさを感じてしまう。
包丁の餌食になるのは御免だと、二人は大人しく座った。
「うわ、凄いねセルティ……あの二人を止めた」
もぐもぐと寿司を食べながら、傍観していた新羅がセルティに耳打ちする。