あの日の君は、

□愛及屋鳥
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   ♂♀
ダラーズのサイト

   掲示板にて


【だからさ、静雄がくっついてるあの女さえ拉致すりゃいけんじゃね?】


【でも下手したら俺達半殺し……もしくは殺されるぞ】


【静雄の野郎はあの女がよっぽど大事らしいからな】


【それはそれでいいんじゃねぇか?】


【何でよ?】


【そんなに大事な女が俺らの手の中にあるんだったら、平和島静雄も下手に手ぇ出せねぇだろ?】


【……なるほど】


【よーし。なら、まずは女をさらう方法を考えようぜ】


【これって、ひょっとしたら……】


【いける……かもな】


   ♂♀

臨也は自分より低い場所にいるセルティを見下ろした。

「やあ運び屋。今日は、このスーツケースを運んでもらいたいんだ」

隣に置いてあったケースを軽く叩く。

前に臨也が、『つまらないモノ』だと言っていたものだ。


「場所は……そうだなぁ。特に指定しないよ」

『どうしてだ?』

見つめてくるセルティに、しれっと言い放った。



「中身、カラッポだから」



開けていいか聞き、セルティはケースを恐る恐る開く。

──何もない。

それなのに何故こんなものを運ばせるのか、セルティは怒りの言葉をPDAに打とうとした。


だが臨也は既におらず、そこにはPDAを持ったままのセルティとカラッポのスーツケースだけが残された。



スーツケースに目をやり、セルティは肩を落とした。




散々迷った挙げ句、路地裏にスーツケースを置いた。


ゴミと間違われそうだが、こんな場所に滅多に人が来るとは思わないだろう。


だからこそそこへやって来た人間が、誰にも見られることなくスーツケースを回収出来た。




   ♂♀


ピンポーン


チャイムが鳴り、美雪は慌てて玄関の方へ向かった。

ドアを開けると臨也が自分を見下ろしていた。

「やあ」

爽やかな笑顔と声は相変わらずだ。


「どうしたの臨也?まあ、上がって」

家の中に通し、靴を脱いで奥へ進もうとした美雪の足が止まる。

臨也に後ろから抱きしめられ、美雪は回されている腕を掴む。

「い、臨也……!?」

「……だからさ、もっと大きな声出さないと……誰も来てくれないよ?」


強く押し倒され、美雪は背中を床に打ち付けてしまう。


「ねぇ。何で美雪は俺のこと友達だと思ってくれるの?」

唐突に投げられた質問。


臨也は酷く、悲しそうな顔をしていた。


「……前にも言ったけどさ。"恋人として"仲良くしていこうって」


ずっと前の、祭りの日。

あそこで臨也に、告白紛いの言葉を言われた。


「俺はね、人間観察が趣味なんだ。中学の頃からだったかな。それから人間を愛するようになった。……でもさ、美雪は違う。ずっと見ていたい。なのに、俺を見て欲しくない。自分にも良く分からないんだよ……」

美雪に抱き着き、搾り出すような声で話す。


「ドタチンやシズちゃん……優君が、羨ましかった」


──いつも素の自分を見せられて、美雪の傍で笑っていられて。

その言葉は、臨也の胸中で発せられた。





──君を独占したかったのかもしれない。




   ♂♀



青年は、人間を愛しています。

彼は女の子をじっと見守っているだけでした。


『好き』とも『愛してる』とも言えず、仮初めの恋人だとしても、女の子を傍に置いておきたかったのです。





青年は、女の子を愛しています。




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