あの日の君は、
□一意攻苦
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当て付けがましいのだろう。
二人の後ろを歩きながら、優は繋がれた手を憎々しそうに睨んでいた。
♂♀
「……………」
「……………」
家に着いたのはいいが、姉は台所に行ってしまい、ただ黙って臨也と向かい合うようにして座っていた。
目の前にはアイスコーヒー。自棄で勢い良く飲むと、いつもより苦い気がした。
「ところで、まだ美雪が好きなのかな?」
「ぶはっ……な、に言ってるんですか」
吹き出しそうになったが慌てて飲み込む。咳き込みながら臨也を見遣った 。
相変わらずの笑顔だ。
「だって、俺が美雪と話してると怖い顔なんだもん。般若みたい」
「そんな顔してません! 俺は至って普通です!」
「自分でも普通じゃないって分かってるくせに。お姉さんを好きになってる時点でさ」
ーー……口聞くんじゃなかった……。
後悔したが、後の祭りだ。
どんな嫌味を言われようが、適当に返事をして、自分が我慢していればいいのだ。
「君も早く彼女を作ればいい。そうすれば直ぐに美雪を諦められるよ? 君は優しいからねぇ、彼女に悪いと思って美雪を忘れようとするはずさ」
「余計なお世話です」
「本当にね」
ーーじゃあ言うなよ!
苛立ちが募ったが、何とか落ち着かせ、机に頬杖をついてそっぽを向いた。
「ごめんごめん」
笑いを含ませた謝罪に、眉を潜めた。
「……臨也さん。好きな子がいたらどうしますか?」
「俺のものにするよ。もうなってるけど」
「……もし、その人に他に好きな人がいたら?」
「面白くて実にくだらない質問だねぇ。そいつを殺してでも奪うさ。当たり前だろ?」
「……そうですか。わかりました。
じゃあ、俺もそうします」
「へぇ……? まさか、俺を殺して美雪を奪う……?」
「はい」
二人の間に、緊張感が走る。
「あははははっ! いいねぇ優くん! 君は賢いと思ってたけど、俺の買いかぶりだったみたいだ!
やれるものならやればいい。美雪は、俺のものだ」
♂♀
夕飯ができて、それを完食して、風呂に入って。
いつもはそんな感じだが、臨也と姉を二人きりにさせるわけにはいかない。
シャワーを浴びるだけにし、優はリビングへ戻る。
が、足が止まった。
臨也が姉に、自分に見せつけるようにキスをしている。
ーー恋人同士だから、変じゃない…
やめてくれ
臨也さんと付き合ってるんだから
姉さん 姉さん……
キスなんて当たり前の行為だろ?
俺だって姉さんが好きなノに……
…………美雪が好きなノに……
目の前が真っ白になり、自分の部屋に駆け込んだ。
ベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋める。
枕元に置いてあった自分の携帯が、ランプを光らせている。
メールだ。
相手は……折原 臨也と、紀田 正臣だ。
From:紀田 正臣
Sub:
ーーーーーー
よう!大丈夫か?
何かあったら俺に相談しろよ?
俺らもうナンパ友達だからな!b
じゃ、また明日な!ノシ
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From:折原 臨也
Sub:
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もしかして、拗ねた?
打たれ弱いねぇ
残念でした(笑)
ーーーーーー
「……………く、そっ………」
ここに居たくない。